INFORMATION
村上 幸一氏
株式会社ケミストリー代表取締役。経営コンサルタントとして、地域活性化や農業分野を中心に幅広い支援を行う。経営診断のほか、経営継承や第三者承継(M&A)、農業BCP、地域活性化プロジェクトの推進、経営戦略や組織戦略の上位戦略策定と実行などの広い範囲での対応が可能。農林水産省「農業の経営継承に関する手引き」監修。「理論無くして実践無し、実践無くして理論無し」をモットーに活動している。
保有資格
事業承継士、中小企業診断士、上級農業経営アドバイザー、第三者承継士(M&A)
実家の農業を引き継ぐ時のよくある9の質問
親元就農や経営継承は、家庭ごとに状況が異なり、決まった進め方があるわけではありません。
役割分担や意思決定、家族との話し合いなど、制度や手続きだけでは整理しきれないテーマも多くあります。
「何から決めればいいのか」「家族とどう話を進めればいいのか」といった具体的な質問はよく出てきます。そうした場面で多くの方が立ち止まりやすい質問をQ&A形式で紹介します。
すべてを当てはめる必要はありませんが、ご自身の状況と照らし合わせながら、考え方を整理するヒントとして参考にしてもらえたらと思います。
Q1.役割はどのように分担すればいいですか?
親子間であっても「誰が何を担当するか」ははっきり決めておくことが大切です。特に親が管理業務を抱え込み、後継者が単純作業のみに従事すると、不満が溜まりがちです。
Q2.給与・処遇はどのように決めればいいですか?
同居家族であっても、生活費と経営費を分けて後継者が経済的に自立できるようにします。
Q3.経営移譲のスケジュールのポイントは?
「いつ」、「誰に(長男?長女?次男?など)」、「どのように」を中心に進めます。
Q4.意思決定のルールはどのように定めますか?
機械導入など、重要事項を誰が決めるのかをルール化します。親子だとつい感情論になりがちですが、数値に基づく判断を行いましょう。分野別に権限委譲を行うことも大切です。
最終決定権者を明確にしないと、経営判断が遅れ、親子げんかの原因となりやすいです。
Q5.住環境とプライバシーについての考え方は?
仕事も生活も常に一緒では息が詰まり、配偶者を含めた人間関係の悪化を招くことがあります。同じ屋根の下であっても、可能な限り居住空間を分けるとか、食事や風呂の時間をずらすなど、互いのプライバシーを尊重しましょう。
Q6.将来の経営ビジョンはどう話し合うべきですか?
親子で方向性の違いが生じることがあります。
規模拡大は設備投資の可否にも関わるため、どのような農業経営を目指すのか、お互いの夢や目標をすり合わせ、共有することが大切です。
Q7.資産の相続について、親族で争わないためには?
農地、施設、機械などの農業資産をどのように引き継ぐのかだけでなく、兄弟姉妹がいればその遺留分をどう配慮するかを考えなくてなりません。親の遺言書の作成、生前贈与、代償金の準備など、早めの相続対策と親族間の合意形成をしましょう。
Q8.トラブルを防ぐための雇用契約と「家族経営協定」とは?
労働時間、報酬、休日、経営移譲計画などを明文化して定期的に見直すことで、甘えのない、プロフェッショナルなビジネスパートナーとしての関係を築く基礎となります。雇用契約を結ぶのもよいですし、家族間で話合い「家族経営協定※」を締結するのもよいでしょう。
※家族経営協定とは
家族で取り組む農業経営について、経営の方針や家族一人ひとりの役割・就業条件・就業環境について、家族間の十分な話し合いに基づき取り決めるもの。
Q9.親子間のコミュニケーションで大切なのは?
実務的な問題なのに、感情的な対立で話し合いにならないケースも多々あります。親は子を「一人前」と認め、子は親の「経験」を尊重する姿勢が必要です。
すぐに使える簡単チェックリスト
実家の農業を引き継ぐにあたり、まず何を確認すればよいのかを整理するために、下のチェックリストを用意しました。 今の状況を把握するためのものなので、できるところから気軽に使ってみてください。
■親元就農までにやっておきたいチェックリスト
| 1. 親と話す | □いつ頃から継いでほしいと思っているのか確認 □将来の働き方や、継いだあとのイメージを共有 |
| 2. 実家の農業の現状把握 | □農地・機械・ハウスなど、何がどれくらいあるか把握 □借金・補助事業の活用状況・リース・出荷先など、経営の「現状」をおおまかに理解 □親が実践してきた作業のコツや工夫を聞く |
| 3. 家族で話し合う | □親・兄弟姉妹も含めて「誰が何を継ぐか」を話す □決まったこと・まだ決まっていないことを書き残す |
| 4. 必要な書類をそろえる | □農地の情報(どこを誰が使っているか)を確認 □機械や施設の所有者・年式を確認 □出荷契約や借地契約・補助事業申請書類などのコピーを集める |
| 5. 引き継ぐ手順(おおまかな計画)をつくる | □いつ・どの作業から引き継いでいくか決める □どの資産を、どのタイミングで引き継ぐのか話し合う □必要に応じて、普及指導員や税理士に相談する段取りを決める |
| 6. トラブルを防ぐために | □家族の意見を聞きながら、定期的に話し合う □決めたことは毎回メモに残す □名義や契約の「現状」を正しく把握する |
(参考:農林水産省「農業の経営継承に関する手引き」)
■実家の農業を引き継ぐために「最低限そろえたい必要書類チェックリスト」
| 1. お金と経営の状況がわかる書類 | □青色申告書・決算書(直近のもの) □借入金・リースの契約書 □農業用のお金と個人用のお金がわかる資料(通帳など) |
| 2. 農地や設備の情報がわかる書類 | □農地の場所・地番・所有者がわかる資料(登記簿や地図・農地台帳) □ハウス・機械・設備の一覧(あるものでOK) □機械や施設の購入時の資料・管理のメモ※機械や施設導入時に補助事業を活用している場合は、要件などを確認できるもの、引継ぎ時・申請時必要なこともあります |
| 3. 取引や働き方に関する書類 | □出荷契約・販売先との契約書の控え □家族や従業員の雇用契約書(いる場合) |
| 4. 話し合いの内容をまとめたメモ | □親子や家族で話した内容のメモ(いつ・何を引き継ぐか、決めたことなど) |
(参考:農林水産省「農業の経営継承に関する手引き」)
親元就農した先輩農家の事例を紹介
栃木県内で親元就農した5人の先輩農家の事例を紹介します。
Uターン就農で実家とは別の経営体としていちご農園を法人化
会社員を経てUターン就農した菊池太輔さんは、当初は父の農園を継ぐのではなく、別の経営体として法人を立ち上げました。親子それぞれの役割を分けて経験を積み、経営基盤を整えたうえで、2022年には父の農園と経営統合を実現。段階的に関係性を築いた、親元就農の事例を紹介しています。
海外研修を経て親元就農。米、なすを栽培し法人化を実現
代々農家の家に生まれた上野将さんは、大学卒業後にアメリカで研修を経験し、地元・下野市で親元就農を選びました。父親と協力しながら農業法人を設立し、米に加えてなすなど多品目栽培を展開。法人化を機に経営の透明化や労務環境が改善し、従業員も雇用するなど事業を拡大しています。将来の目標や親元就農の心構えも語られています。
栄養士から親元就農。にら・米を栽培し売上は4倍に拡大
谷中啓紀さんは、大学で栄養士の資格を取り就職後、結婚を機に鹿沼市の実家の農業を継ぐ決断をしました。父や祖母とにらと米を栽培し、就農2年目以降は毎年栽培面積を拡大。売上は4年で4倍に成長し、従業員も増加しています。親元の基盤を活かしながら法人化を視野に入れ、着実に事業規模を大きくしていく取り組みを紹介しています。
妻の実家の農業に関心を持ち単身移住で親元就農。米農家として事業を法人化
八木恵太さんは、妻の父が作るお米に関心を持ったことをきっかけに、農業の道を志しました。東京での仕事を離れ、単身で那須町へ移住し、義父が営む稲作農家で親元就農をスタート。その後、経営の効率化や規模拡大に取り組み、法人化を実現しました。家族経営の強みを活かしながら、新しい技術も取り入れ、持続可能な農業経営を築いています。
兼業農家から専業・法人化へ。多品目栽培で栽培面積を拡大
勝呂浩光さんは、建設業の現場監督を続けながら就農研修を重ね、親元の農地を基盤に栽培面積を約3haから10haまで拡大。2024年には法人化を果たし、社会的な信用や支援を受けながら経営基盤を強化しています。多品目栽培や販路拡大にも取り組み、専業への転換と規模拡大を具体化しています。
実家の農業を継ぐなら、必要な情報を早めにチェックしておこう
実家の農業を引き継ぐかどうか、どのように進めるかは、人それぞれ状況が異なります。
今回紹介した内容をすべて当てはめる必要はありませんが、「これは自分たちにも関係しそうだ」と感じた点があれば、家族で話し合うきっかけにしてみてください。
早めに整理しておくことで、選択肢を広げながら、無理のない形で次の一歩を考えやすくなります。
「実家の農業、どう引き継ぐ?【基礎編】手続き・名義・税金について、大切なポイントを専門家が解説」も合わせて確認してみましょう。












