事例紹介

米農家を継いで専業農家に。栽培面積は5年で3倍以上に拡大、未来へつなぐ農業を目指し邁進中!

兼業農家に生まれ、将来は米農家になると決めていた勝呂浩光さん。建設業の現場監督として働きながら就農し、米の栽培面積は5年で約3haから10haに拡大。うち一部は今年から特別栽培米にチャレンジし、将来的には有機JAS認証取得を目指しています。そんな勝呂さんに、兼業から専業に移行するまでの経緯や、将来の展望を聞きました。



INFORMATION

勝呂浩光さん

すぐろ・ひろみつさん|栃木県佐野市出身。専門学校の建設コースを卒業後、ビル・病院建設などの現場監督として働きながら「就農準備校とちぎ農業未来塾」などで学び、2020年に親元就農。青年等就農資金・農地利用効率化等支援交付金などを活用し、2024年「株式会社SUGURONOUEN」を設立。現在は、妻と母とともに米10ha・麦7ha・大豆35a・里芋10aを栽培。2024年の売上は約980万円。


建設の現場監督から米農家に転身! 2年間地道に学び、経営計画も着実に


「いつかは農家に」を叶えるため、働きながら「とちぎ農業未来塾」へ

勝呂さんは建設業から農業に転身されたのですね。以前から農家になろうという想いがありましたか?


前職は、ビル・マンション・病院などの建設の現場監督だったんです。そんな中でも、農家に生まれて「いつかは継ごう」という想いから休日には農作業を手伝っていました。
親の代では兼業農家で利益がほとんど残らない経営状態だったので、農業を続けるには専業化して規模を大きくするしかないと思っていました。


週4日建設業の現場監督をしながら、とちぎ農業未来塾で2年間学ぶ

就農するまでに、どうやって農業について学びましたか?


働きながら休日を利用して、栃木県の就農準備校「とちぎ農業未来塾」の就農準備基礎研修(週1回)と就農準備専門研修に約2年通い、農業について改めて学びました。現場監督として週4日働いて、就農準備専門研修に週3日通い、それ以外の時間はほとんど農作業と、休む間もないほど忙しかったですね。

農業のノウハウを学びながら経営計画をじっくりと考えて、それに基づいてこれまで経営を行ってきました。


働きながら農業を学び、その中で綿密な経営計画も立てた中身の濃い2年間でしたね。 計画書を見た県の方もていねいさに感心していました。
どのタイミングで農業1本になりましたか?


はじめは農業だけだと赤字でしたが、黒字化した3年目くらいのタイミングで完全に前職を辞めました。

建設業の方も資格をしっかり取って技術も習得していたので、当面はそちらの収入が大きかったです。前職はフリーランスのような形態でアルバイト依頼のようなものだったので、仕事量のコントロールができたのも良かったですね。


面積拡大のカギは「農地の集約」と「米以外も栽培すること」


就農後、スムーズに栽培面積を拡大されましたが、どうやって農地を確保しましたか?


親から継いだ時点では3〜4ha。そこから近隣の方に農地を借りて面積を広げ、米だけで10haまで拡大しました。基本は飛び地で借りていますが、その後近隣の農家と交換したりして効率良く作業できるよう農地を集約していきました。


勝呂さんが兼業農家から専業農家に移行できたカギは何だと思いますか?


米農家の場合、親もしくは誰かに農地を譲りたい人から経営を引き継ぐのがスムーズだと思いますが、もし私のように小さい規模から拡大するなら、自分なりの戦略を立てることが大切です。

私の場合は建設業を続けながら就農したので、兼業で収入を確保しつつ徐々に農業機械を導入していきました。さらに、米だけでなく麦・大豆なども組み合わせて、リスク分散しながら全体の栽培面積を増やしていったことがポイントだったのではないでしょうか。


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2024年には法人化。社会的な信用を得て人脈も広がった

専業農家になり、2024年には法人化されましたね。


法人化の大きな目的の1つは、農業機械の購入をするために国の「農地利用効率化等支援交付金」を活用して助成を受けたかったというのがあります。ポイント上積みのためにも法人化しました。

国や県などの補助事業や融資を活用するにも、それぞれ条件を満たさないと申請できないですからね。どういう条件なのか調べて、そこに当てはまる状態になるように計画し、行動していきました。


収入や売上がある程度を超えると法人化した方が税制面でのメリットが大きくなるとも聞いていました。JA佐野にも相談し支援してもらいました。関係各所や専門家からのアドバイスも参考にしましたね。
実際に法人化してみて、人脈が広がったり、信頼度が高くなって取引がスムーズになったりといった変化も感じています。


機械購入は優先順位を決めて実行するも、高額な農業機械の投資額に大きなプレッシャーを感じた

機械はどんな順番で導入し、どのように選びましたか?


親から引き継いだ機械があったので、面積を拡大するために必要な機械から、優先順位をつけて導入していきました。田植え機、トラクター、2トンのフォークリフト、選別機や梱包機器などの販売設備、米の乾燥機、コンバイン、施肥・播種機という順番で、2021年から2024年にかけて購入しました。

機械を選ぶポイントは、性能や作業効率はもちろん、一番狭い田んぼにも入れるサイズであることを重視しました。例えば、コンバインの場合は、効率だけを考えると6条刈りぐらいが良かったのですが、狭い田んぼにも入れる汎用性も考慮して5条タイプを選びましたね。


機械への投資にあたり、金銭面の不安はありましたか?


親からの引き継ぎや就農自体は結構スムーズだったのですが、就農2年目くらいに迷ったことはありました。これだけ大きい機械をいくつも購入すると、補助事業を活用してももちろん自己負担分の融資の返済がありますからね。「これを買ったらもう辞められない…」と不安になったタイミングはあります。

特に、その頃は米の単価が落ち込んだ時期でしたし、災害もあって収入が減少して「このまま農業を続けられるのかな」と悩んだこともありました。


そんな時期をどのように乗り越えていきましたか?


前職の収入があったのはもちろん、あとは「専業農家として絶対に成功する! 」という強い気持ちしかないですよね。そのためにしっかりと計画を立てて、いい時も悪い時も乗り越えられるよう行動していきました。前職はとにかく色々と準備・計画することが大切な仕事だったので、就農当時や機械購入時にはそんな経験が役に立ったと思います。


米農家の収入は基本的に年1回。肥料や資材など必要なものにはお金を払わなくてはいけない。そして、規模拡大のため、機械に先行投資しなくてはいけないことも大変でした。法人化して以降は、収入保険(※)も活用しました。


(※)収入保険とは

自然災害や価格下落などによる収入減少を幅広く補償する制度。青色申告を行う農業者が加入でき、すべての農産物を対象に、基準収入の9割を下回った際に差額を補てんするもの。保険料の一部は国から補助され、経営安定の備えとなります。


親元就農について栃木県農業振興公社のワンストップ相談窓口に相談


有機米づくりを叶えた先に目指すのは、未来へつなぐ農業


4品種の米を栽培。2025年から特別栽培米にも取り組む

主要品目の米は、どのような品種を栽培していますか?


面積が大きい順に「とちぎの星」「にじのきらめき」「コシヒカリ」「ゆうだい21」。コシヒカリだけが早生で、あとは田植えのタイミングをずらして作業や収穫時期を調整しています。

就農してから品種を増やしたり、新しい栽培技術も積極的に学んで導入したり、チャレンジの数年間でした。「少量で試してみて、うまくいったら来年大きくして」といった形で。その中で失敗や苦労もたくさんしてきましたね。そんな時期を経て、今後は今の品種や栽培技術を定着させて、しっかり安定生産できるように形にしていきたいです。


今年から特別栽培米にもチャレンジされていますね。


今年は「コシヒカリ」と「にじのきらめき」で特別栽培米をつくっていて、将来的には「有機JAS」認証取得を目指しています。

米の有機栽培の先にある目指す姿は「未来につなぐ農業」。環境に配慮した有機の米を、子どもたちに食べてもらえたらと思っています。例えば、学校給食でも有機の農作物が導入され始めていると聞いているので、せっかくだから地元・佐野市の子どもたちも有機米を食べて健やかに育ってほしい、という願いがあるんです。


環境への配慮もすごく大切にしています。例えば、なるべく除草剤を使わず栽培できるよう、草が小さいうちに取り除くための除草機を導入したり、肥料選びにもこだわったり。すべては、「未来のための農業をしたい」という想いを実現するために行っています。


販路も拡大中! 自社ECにもチャレンジ

米の販路はどのようにして確保していますか?


父の代では米穀店にしか出荷していなかったのですが、今は米穀店に60%、JA佐野に30%、残り10%を個人のお客さまに直接販売しています。直売所にも出していますね。


今後はネット(EC)販売も強化したくて、ホームページを開設したんです。今後、従業員が増えた時のために仕事を増やしておきたかったのと、自社ECサイトで販売することで、より高単価が期待できることもあります。たくさんの人に買っていただけるように頑張っていきたいですね。


販売の間口を広げるうえで、どのように販促や宣伝をしていますか?


お客さまに向けてこまめに情報発信ができるよう、最近SNSをいくつか立ち上げました。自社ECサイトのほかに複数の通販サイトにも参入を検討しています。米の価格が上がっているタイミングで、ネットでの販売も波に乗っていけたらうれしいですよね。


新規就農の疑問・質問は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


専業農家を志すなら、熱い気持ちと冷静な計画性を持つことが大切!

勝呂さんと妻の佳代子さん

SUGURO NOUENは、妻の佳代子さんと一緒に運営されていますが、佳代子さんも当初から参加されていたのでしょうか?


以前は違う仕事をしていたのですが、夫が農業を始めるタイミングで手伝うようになりました。でも、まさかここまで大きくなるとは、まったく思っていなかったですね(笑)


妻も今は農作業中心ですが、今後はSNSや販売担当など、得意分野を生かしていってほしいと思っています。


これから農家になってみたい方へ、先輩農家としてアドバイスをお願いします。


私のように兼業農家を継いで面積を広げて専業の米農家になり、その一部を有機や特別栽培米に、という方は少ないかもしれません。兼業と専業、慣行栽培と有機栽培ではやり方もかなり違いますからね。

その前提で、これから就農を考える方も「こんな農業をやりたい」という強い気持ちや目的があるなら、ぜひ頑張ってみてほしいです。私たちも「未来へつなぐ農業を」という想いがいつも原動力になっています。やっぱり、専業農家として一番大切なのは熱い気持ちなんじゃないでしょうか。


就農にあたって大切なポイントはありますか?


「こんな農家になりたい」という熱意を形にするには、きちんと計画を立てる冷静さも大切ですよね。私は高校が商業科、専門学校の建設コースを卒業して、その後は建築業を長年経験してきました。その中で、計画の立て方や準備することの大切さを学んできましたが、すべての経験が活きていると強く感じます。農家はいい時も悪い時もあるけど、しっかり準備をして乗り越えていきたいですね!

就農後、赤字が続くリスクに備えて、最初の数年間に収入面での安全性を確保しておくことも大切だと思います。


さいごに

これまでの経験を存分に活かしながら、能動的に米栽培を深く学び、規模拡大し法人化、そして有機栽培へと歩みを進める勝呂さん。その根底には「子どもたちの未来のために」という熱い気持ちがありました。

何から始めたらいいのかわからないという人も、栃木県には充実したバックアップ体制があります。勝呂さんのように「こんな農家になりたい」という想いがある方は、ぜひ気軽にご相談ください。


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