事例紹介

地域おこし協力隊で芽生えた、とちぎの農ある暮らし。得意分野を生かし人と地域をつなぐ

生活に農をとり入れる農ある暮らし。栃木市寺尾地区に移住し、地域おこし協力隊として、寺尾のPRの一環で農業体験の企画運営や農家さんのサポートを行う國府谷純輝さんに、とちぎの農ある暮らしの楽しさ、やりがいについて伺いました。



INFORMATION

國府谷(こうや)純輝さん

栃木県芳賀郡茂木町生まれ。大学時代からまちづくりに興味があり、「地域づくりインターンの会」に参加。大学卒業後は、求人広告を運営する会社に就職した。
栃木県へのJターンを考えていたこと、いずれは起業をしたいという希望があったことから、地域おこし協力隊として栃木市に移住した。
寺尾の魅力を伝えるための広報活動、寺尾の住民たちの協力を得て開催する2つのマルシェ、グリーンツーリズムとしての農業体験などの企画・運営を行う。
https://www.teraonosite.com/


地域に関わる仕事がしたい!地域おこし協力隊としての活動に興味をもつ

國府谷さんが企画・運営しているテラオ「キッカケ」マルシェ

コロナ禍を経て、暮らし方や働き方に大きな変化が訪れる中、テレワークの普及をきっかけに都市から地方への移住を選ぶ人が増えています。自然に囲まれた地域での生活を楽しみながら、農業や農作業をとり入れる農ある暮らしをはじめてみませんか。


地域おこし協力隊は、過疎地域などの条件不利地域に、都市地域から住民票を移して、その地域のPRや農林水産業への従事、住民支援などさまざまな「地域協力活動」を行います。各自治体から募集があり、活動期間は1~3年程度です。


「地域資源を生かす」ための情報発信には、前職での経験が生きている

國府谷さんは、2021年6月から栃木市寺尾地区で地域おこし協力隊として活動を開始されました。地域おこし協力隊に参加された経緯や動機を教えてください。


里山が多い茂木町で生まれ育って、大学進学のために東京に引っ越したとき、「ここは自分の住む場所じゃない」という違和感があったんです。

大学卒業後、東京の会社に就職しましたが、栃木の里山に関わる仕事がしたいと思うようになり、地域おこし協力隊での移住を考えるようになりました。県内のどこの地域を選んだらいいのか迷っていたとき、有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」に相談したんです。
そこで、栃木市の地域おこし協力隊の先輩を紹介してもらって話を聞き、中山間地域に魅力を感じて寺尾地区を選びました。


地域おこし協力隊として、どのような活動に取り組んでいますか?


「寺尾地区の地域資源を生かした賑わいづくりと情報発信」というミッションで、いろいろなことを企画してやっています。
まず手を付けたのが、寺尾地区についての情報発信でした。前職の会社では、営業と制作ディレクション、ライターの仕事に携わっていたので、その経験を生かして、Instagaramやnoteを使って発信したり、「テラオノサイト」というHPを立ち上げたりしました。


國府谷さんが企画・運営しているテラオ「ピクニック」マルシェ

これまで地域に「なかったもの」を生み出し、新しい人の流れを呼び込む

ほかにはどのような活動をしていますか?


寺尾地区の良さを市内外の人に知ってもらうために、寺尾の住民たちの協力を得て、「テラオ『キッカケ』マルシェ」「テラオ『ピクニック』マルシェ」を開催しています。

「テラオ『キッカケ』マルシェ」は、寺尾地区のお店を広く知ってもらうことを目的としたイベントです。栃木市の市街地で開催し、寺尾地区以外のお客様にも楽しんでいただけました。
一方、「テラオ『ピクニック』マルシェ」は、地区外から寺尾地区に足を運んでもらうピクニックをテーマにしたマルシェです。参加者には、寺尾地区の魅力を実際に感じていただける機会を提供しています。


イベント開催後に、出店者の方から「寺尾にとって歴史的な1日になりました」と言っていただきました。寺尾地区には、昔からの行事やお祭りが残っていますが、参加するのは高齢者が多く、若い人が参加するイベントがありませんでした。新しいイベントを開催したことで、地域の方に感謝されたことはとてもうれしかったですね。


地域おこし協力隊として、地域の農家とともに農業体験に取り組む

グリーンツーリズムで地域の魅力を伝える

地域おこし協力隊の活動では、米、そば、さつまいもやじゃがいもなどを育てているそうですね。


農業体験を行うグリーンツーリズムのお手伝いをしたり、大学時代に活動していた「地域づくりインターンの会」の大学生たちのインターンシップを受け入れたりしています。

寺尾まちづくり協議会のグリーンツーリズム部会では、5月は田植え、9月は稲刈りと年に2回の農業体験の事業を行っています。そのイベントで、私はお手伝いという形で携わっています。情報発信や参加者集めの部分を担い、イベント当日は参加者のサポートをしています。


収穫したそばの乾燥。寺尾地区は、出流(いづる)そばが有名なところ

寺尾地区は、出流山満願寺の参拝客にふるまったとされる出流そばが有名です。70~80人の集落に7~8軒のそば屋さんが集まっています。
私が着任したとき、新型コロナウイルスが流行っていて、そば屋さんからPR の機会が減ってしまっていると伺いました。
その状況下で、自分にできることはないだろうかと考え、自分でそばを育てて、その様子を発信することで広めていこうと思ったんです。
農作業の経験も、もちろんそばを育てたこともなかったので、地域の農家さんやそば屋さんに教えてもらってそばの栽培・収穫を行っています。


人と人との結びつきが密。心おだやかで豊かな里山暮らし

農作業でライフスタイルも変わる

グリーンツーリズムでの農業体験

地域おこし協力隊の活動を通じて、農家さんとつながり、農業に関わるようになったことで、ご自身の生活にも変化があったそうですね。


グリーンツーリズムやPRのために始めた農作業ですが、庭で夏野菜を育てるなど、東京にいたころとは食に対する考え方や、食べるものが変わりました。

今、自分に合った暮らしができているなっていう感覚があるんですけれど、それも食生活の影響が大きいんじゃないかと思います。


人との距離が近く温かい。心地よい農ある暮らし

寺尾地区に移住して、生活はどのように変わりましたか? 地域の方とどんな交流をしていますか?


人との距離が近いですね。東京で暮らしていたときより、人の温かさを感じられる距離感なんです。
おすそ分けの文化などは都市部では体験したことがありませんでした。
寺尾地区で活動をして3年半が経ちますが、新しい土地でどうしたらいいのかわからなかったときも、地域の方たちが近くで支えてくれました。
マルシェなどのイベントを行ったことも、コミュニケーションツールになって、ますます関係性を深められました。
密な関係性は、自分にはとても心地よい環境です。


移住希望者と空き家をマッチングさせる仕組みづくりを考えたい

移住するにあたって苦労したことはありましたか?


着任当初、市街地に住んでいましたが、本格的に寺尾地区への定住を考えたときに、家を探すのに苦労しました。地域の人たちにも空き家を探している話をしていたのですが、「家を手放したい人がいる」という話を人づてに聞いて、1年がかりでやっと決まりました。

この地区で活動していても空き家の確保は難しいことだったので、ほかの地域の方が移住するために家を探すのはもっと大変かもしれません。いずれ、移住希望者と空き家をマッチングさせるような仕組みづくりを考えていきたいですね。


地域のためにできることをずっと続けていきたい

地域おこし協力隊としての集大成「広報冊子」も完成間近

稲刈りが終わった田んぼで

まもなく地域おこし協力隊としての活動期間が終了するとのことですが、残りの期間でどんな活動を予定されていますか?


地域おこし協力隊でやってきたことの集大成として、寺尾地区の広報冊子を作成中です。
地域の方たちにインタビューして、記事を作ったり、写真を通して寺尾地区の自然の豊かさや、人の穏やかさなどを伝えたいと考えています。


地域の農家とともに農作業を行い、体験イベントを通して寺尾地区の魅力を発信

退任後のビジョンについて教えてください。


まちづくりや地域に関わる仕事をしていきたいと思っています。
寺尾地区は素晴らしいところなので、住む人たちにもっと地元を誇ってもらいたい。そのために、マルシェ等のイベントや寺尾地区のPRも続けていくつもりです。
あとは、今副業でやっている編集やライターの仕事も続けながら、民泊事業を始める予定です。


主体性をもって自ら動く姿勢が大切。地域おこし協力隊で充実した日々を過ごそう

今後、栃木市への移住を考えている人や地域おこし協力隊として活動したい人に向けて、メッセージをお願いします。


栃木市は自然に恵まれていながら、東京とも距離が近く利便性も高いところです。東京には知り合いも多いんですが、アクセスがいいので関係性を保てています。
東京に住居を構えて栃木にセカンドハウスをもつといった二拠点で生活することも可能だと思います。

私はコロナ禍で任期が1年ほど延長になりましたが、通常は3年間地域おこし協力隊として収入を得られますし、安心して移住生活を構築できます。また、市町の任用条件によっては兼業が認められるため、副業をすることも可能です。


地域おこし協力隊は、着任地によって与えられるミッションが異なりますが、私の場合は、主体性が求められる仕事だと感じました。自分で考えて動かないと活動が進みません。逆にいえば、誰かにやらされている、という感覚はありません。
地域を活性化させたいという強い思いをもって臨めば、さまざまな可能性が広がり、仕事が楽しく、充実した生活が送れますよ。


さいごに

農ある暮らしは生活への農のとり入れ方に決まりやはっきりした定義があるわけではありません。自分がやってみたいと思えることにどんどん挑戦すればいいのです。國府谷さんの場合、最初は寺尾のPRの一環で始めた農作業でしたが、庭で野菜を育てるようになるなど、生活の中で農作業をする比率は上がっています。生活の一部に農作業を加えることから始めてもいいかもしれません。

また、地域おこし協力隊の仕事内容は自治体によってさまざまです。農業研修や6次産業化など、農業に関する募集もあるので募集要件を見比べて検討してみましょう。自分で考えて動くのは大変でもありますが、その分やりがいを感じることが多い仕事でもあります。
興味がある方は、ぜひ情報を集めてチャレンジしてみてください。

 


戻る