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小山田尚哉さん
おやまだ・なおやさん|大田原市出身。学校卒業後、自動車メーカーで整備士として勤務。2019年にアスパラガス農家として就農した。
現在は35aのほ場でアスパラガスを栽培するほか、〈NASU OYAMADA LAND〉の名で、冬季には40aのほ場でブロッコリーも手がけている。
従業員は母親とパート6名が交代制で作業にあたっている。
https://www.instagram.com/nasuoyamadaland/
兼業農家だった会社の先輩に触発され、農業に関心を持つ
自動車の整備士から農家を目指すようになったとのことですが、きっかけは何でしたか?
自動車メーカーで整備士として働いていたころは、いずれ独立して自分の整備工場を持ちたいと考えていました。でも、時代の流れで、町工場ではディーラーにはとても太刀打ちできない状況になってきました。
そんなとき、兼業農家をしていた会社の先輩が、楽しそうに「今日も朝、草刈りしてから出勤した」と話すのをよく聞いていました。
その姿を見て、「農業ってそんなに楽しいのか」と興味を持ち始めたんです。
アスパラガスを育てようと思った決め手は何でしたか?
父が地元のアスパラガス農家から「アスパラは儲かるよ」と聞き、1度植えると長く収穫できると知って興味を持ちました。
近隣のアスパラガス農家でアルバイトしながら1年間栽培の基礎を学ぶ
就農する前は、どこかで研修を受けましたか?
父の後輩で、当時アスパラガス部会の役員だった方の農園でアルバイトをしながら、収穫や選別の作業を学びました。
地元で就農するなら地域に関わった方がいいと思って、消防団にも入ったんです。そこにもアスパラガス部会の役員をしていた方がいて、地域の生産者と知り合うきっかけにもなりました。
那須地方は首都圏で有数のアスパラガスの産地
栽培を学ぶためにアルバイトをしていた農家さんや、消防団で知り合った方の中にアスパラガス農家さんがいらっしゃったとのことですが、大田原市周辺ではアスパラガス栽培が盛んなのでしょうか?
JAなすの管内のアスパラガスは、首都圏で最大の産地といわれていて、約100人の生産者がいるんです。
那須地方は畜産も盛んなので、堆肥がたくさん出ます。アスパラガスは堆肥をたくさん使うので、豊富に使えるのもここでアスパラガスが盛んになった理由のひとつかもしれません。
まだ世間に認識はされていないかもしれませんが、「栃木といえばアスパラガス」といわれるように、もっと知名度を上げていきたいと思っています。
大田原市で農業を始めるなら、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ
「できるだけ早くスタートした方がいい」とアドバイスを受け、20代前半で就農
この地域では、小山田さんのように20代前半で新規就農した方は多いのでしょうか?
近隣のアスパラガス農家さんは、40代後半から50代で会社を早期リタイアして始められた方が多いです。
十分に資金も貯めてから始めるか、若いうちに思い切って飛び込むかのどちらかになるのではないでしょうか。
設備投資に資金が必要になるので、30~40代で子どもにお金がかかる、という状況だとなかなか踏み切れないかもしれませんね。
農業振興事務所の担当者から「就農準備資金を受け取りながら農業大学校で学んでみては?」と勧められましたが、先輩農家の「若いうちに始めた方がいい」との言葉に背中を押され、就農を決めました。
祖父が残した農地を活用して27aからアスパラガス栽培をスタート
農地はどのように確保したのでしょうか?
父方の祖父が農家だったのですが、父が生まれた頃に亡くなりました。その後、祖母が親戚に手伝ってもらいながらお米を栽培していたのですが、その祖母も亡くなりました。父は農家を継がなかったので、農地は他の農家に貸している状態でした。
就農すると決めたときに、一部返却してもらい、27aのハウス面積でアスパラガス栽培を始め、就農4年目にさらに8a増やしました。
就農時にどれくらい資金が必要でしたか? また、小山田さんは20代前半で就農されていますが、自己資金はどのように準備したのですか?
ハウスを1,000万円くらいで建て、他に井戸を掘り、トラクター、軽トラック、防除機、保冷施設などをそろえてトータルで2,000万円くらいかかりました。
会社に勤めていたのは3年間で、預貯金はわずかだったため、青年等就農資金(※)などの公庫資金で賄いました。融資を受けた分は、30代前半までに返済する計画です。
(※)青年等就農資金
新たに農業経営を営もうとする青年等に対し、農業経営を開始するために必要な資金を長期、無利子で貸し付ける制度
アスパラガスは、植えて2年目からようやく収穫ができるようになる
就農後、1年目の経営状況はいかがでしたか?
アスパラガスは、苗を植えてから2年目でようやく収穫できるようになります。
収入が得られるまでは、生活費を稼ぐのにいろいろなアルバイトをしたり、母方の祖父の飲食店を手伝ったりしていましたね。自分の車も売ってしまいました。
収支がプラスになったのは3年目からです。車を買い戻すことができました(笑)
1年目は収入がないので、金銭面では大変だったのですね。
栽培で何か苦労したことなどはありましたか?
草取りや病害虫管理が大変でした。湿度が高いと病気になりやすく、7~9月は草も生えやすいです。虫も多いですし、そういった管理にくわえて、暑い中での枝の剪定作業も過酷です。
剪定作業はパートさんにもお願いするのですが、アスパラガスの単価が下がる時期でもあるので、人件費とのバランスを考えるのが難しいですね。
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気候変動が激しい昨今、栽培方法の改善や冬の収入源確保も重要
3年目以降から現在までの売り上げは約1,000万円をキープ
現在、売り上げはどれくらいですか?
3年目から約1,000万円の売上額になっています。その後も少しずつ上がってはいますが、物価が上がってきているため、通帳にある金額はあまり変わらない感じです。
アスパラガス栽培に加えて、ブロッコリーの栽培を始めたのはどういう流れだったのでしょうか?
アスパラガスの出荷は4月から10月までです。半年の収穫期間で1年間の生活を賄える高収益性が魅力で、他の作物と比べて安定した収入が得られると思います。
ただ、物価も上がってきているし、気候変動の影響も大きくなってきているので、収穫ができない冬の期間にも収入を確保しておきたいと考えていました。
近隣の農家さんに「土地があるならブロッコリーを植えれば?」と提案してもらったのをきっかけに、就農して4年目から、ブロッコリーを始めました。
20年間収穫可能だといわれる株も古くなると収量は落ちる。更新時期の見極めが必要
就農して6年目ですが、現在、課題に感じていることはありますか?
年々暑さが厳しくなっているので、通常20年間可能だといわれている株がそんなに使えないんじゃないかと思っています。
株が古くなると収量は落ちていくので、新しい株に植え替えるタイミングを考えていかなくてはなりません。
収益を伸ばすために、旬とずらして出荷することも計画しています。ハウスの温度調整でそれが可能です。
整備士として働いていた会社員時代と今を比べてみていかがですか?
農業は、天候や世の中の動きにも左右されますし、生活が安定するかどうかもわかりません。そういう意味では、会社員のほうが安定していますよ。
でも、毎年4月になって芽吹いてきたときの感動や、収穫が終わるときの達成感からやりがいを感じます。
自分の手でつくったもので収入を得ることも魅力です。
会社員時代は地元の人たちとの交流ってほとんどなかったんですが、農家になって密につながることができました。
畑で仕事していると、近所の人たちが来て「贈答品にしたいから売ってほしい」と声をかけられることがあります。こういうことで交流が深められるのがいいですね。
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アスパラガス部会の役員として地域を牽引していく存在に
現在は、アスパラガス部会の役員も務めているそうですね。地域のアスパラガス栽培について、今後の見通しについて教えてください。
どこの産地も同じですが、気候変動で風土に合う作物に変化が生じてきています。
今、28歳なのであと30年は農業を続けていくことになります。アスパラガスを中心に考えてはいますが、この先もっと暑さが厳しくなるのだとすると、アスパラガスの収穫時期が短くなる可能性もあります。
いろいろとアンテナを張って、柔軟に考えていくことも必要だと感じています。
パートさんも確保しにくくなっているので、それを機械で補うのか、費用対効果を考えた時にそれが正しいのか、いろいろ課題が山積みです。
今年からアスパラガス部会の役員になったので、産地全体でアスパラガスの単価を上げていく方法を考えています。
資材や肥料などの値段が高騰しているので、新規就農するのにも僕のときよりもっと初期費用がかかるかもしれません。
アスパラガスは値崩れしにくく収入も安定。まずは、アルバイトなどを経験してみるのもいい
就農を考えている方に、アスパラガス栽培の魅力や、今後のアドバイスをお願いします。
アスパラガスは土の中で育っていくので、芽が出てくるまでうまくいっているのかどうかがわかりません。だから、農家によってやり方が違います。それがアスパラガスのおもしろさだと思っています。
アスパラガスは値崩れすることがあまりないので、収入もほかの作物に比べて安定しているところもメリットです。
まずは、実際に農家でアルバイトなどで働いてみて、農業の現状を知ることも大切だと思います。
自分自身を振り返ると、もう少しお金を貯めておくべきでしたが、若いうちに始めたからこそ、借入金額など、融資の審査では有利に働いた面もあったのではないかと思います。
就農して1年目は、前年の収入に応じた税金も支払わなくてはならないので、注意が必要ですね。
さいごに
明るく前向きな人柄の小山田さん。気候変動や資材高騰といった課題にも真摯に向き合い、前へ進もうとする姿勢が印象的でした。
首都圏有数の産地であるJAなすの管内には、アスパラガス栽培に適した環境や、先輩農家の支えなど、就農を後押しする仕組みがあります。
興味を持った方は、まずはワンストップ相談窓口で話を聞いてみてはいかがでしょうか。












