事例紹介

営業・販売職から夫婦でいちご農家に。前職から収入増、2年目から黒字化実現!

地元・鹿沼市で農業経験ゼロから新規就農し、二人三脚でいちごの栽培を行う島野優一さん、実樹さん夫妻。ふたりが異業種を経て農業に飛び込んだ経緯から、研修や栽培方法などいくつもの選択をした道筋、そして2年目にしてすでに黒字化した経営のポイントについて伺いました。パートナーと就農するコツも、お見逃しなく。



INFORMATION

島野優一さん、実樹さん

しまの・ゆういちさん、みきさん|鹿沼市出身。夫婦ともに会社勤めで農業経験がないところから農家へ転身。夫の優一さんが社会人向けの「とちぎ農業未来塾(就農準備専門研修IIコース)」での座学と実習に加えて、いちご農家で1年間の研修を受け、妻の実樹さんも同じいちご農家でのアルバイトを経て、2021年に鹿沼市で就農。土耕によるいちご栽培で、就農2年目に経営の黒字化を果たす。現在は16a、6棟のハウスと2棟の育苗ハウスで「とちおとめ」「とちあいか」を生産。全量をJAに出荷している。


地元の先輩の手伝いをきっかけに一念発起!夫婦でいちご農家に



取材をしていても仲の良さが伺える素敵な島野夫妻。お二人とも農家出身ではないということですが、就農以前は何をされていましたか?


自分は保険の営業をしていました。結婚当初はお互い会社勤めで、まだ農業をやるとも決めていませんでした。でも、実家が自営業なので、自分もいつかは事業を起こしたいと考えていましたね。

保険の仕事は完全歩合制だから、やった分だけ稼げるやりがいはありましたが、いつまで続けるか悩んでいたんです。ちょうど結婚することになったので、いったん区切りをつけようと思い、仕事を辞めて結婚式を挙げ、新婚旅行に行きました。


同じ時期に、農家出身ではない地元の先輩がとちぎ農業未来塾で研修を受けて、いちごで新規就農したんですよ。新婚旅行から帰ってきて次の仕事を考えていたら、先輩から「暇なら手伝いに来てよ」と言われて。手伝ってみたら、自分でもうまくやれそうな気がしたんです。

いちご栽培は、しっかり稼げて農閑期には休みが取れるという話も聞きました。夏頃から、とちぎ農業未来塾の募集がある翌年2月まで手伝ってみて、気持ちが変わらなければやろうと思いました。当初は友達と2人での就農を考えていましたが、友達が降りてしまったんです。1人でもやりたいと思って妻に相談したら、それなら私がやると言ってくれました。


結婚式も新婚旅行も彼は無職だったんですよ(笑)。私はウエディングプランナーのあと、ブライダルジュエリーの販売をしていましたが、がんばって納得のいく実績も残したので、もういいかなと考え始めていた頃だったんです。

夫がいちご農家になりたいと思っていることはなんとなく気づいていたので、相談されるのを待っていたんですけど、なかなか相談してくれなくて(笑)。でも話してくれた時に、いちごをやりたい気持ちが伝わってきたので、だったら私も仕事を辞めて一緒にやろうと決心しました。


ご夫妻でいちご農家を目指すことになり、不安なことも多かったと思いますが、そこから就農に向け、どう動かれましたか?


いちご農家になると決意したものの、実家が農家ではなかったこともあり、栽培技術をどう身につけるか、農地はどのように確保すればよいか、ハウスや機械を導入するための資金をどうするかなど不安がありました。

最初は地元の先輩に、どうやって新規就農したかを聞きました。その後、県の農業振興事務所に相談して、研修内容や認定新規就農者になるまでの流れ、書類の書き方などを細かく教えていただきました。振興事務所からは、その都度状況確認の連絡があり、必要であればいつでも対面で相談できたので、安心して就農準備を進められましたね。


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とちぎ農業未来塾に通学、地域農家での研修と組み合わせて認定新規就農者に!


技術の習得方法について、詳しく教えてもらえますか?


自分はできるだけ早く事業を始めたかったので、1年で認定新規就農者になれる「とちぎ農業未来塾(就農準備専門研修IIコース)」を選びました。
2年かけて学ぶ鹿沼市の研修制度もありますが、2年間補助金と妻の給料だけでは生活が大変だと思ったので、1年で学んで翌年から自分で作ったほうが、家計的にも楽かなというのはありましたね。

月・水・金曜日に農業経営と栽培技術を学び、火・木曜日は鹿沼市内の先進農家で実践的な研修を受けました。その方が栃木県農業士だったのがよかったですね。いちごは採れる人と採れない人で収量に5倍もの差があるといいますが、トップの技術が学べたのは大きかったです。そして技術や経験はもちろん、地域にも精通されていました。


農業研修に関する相談は栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


私は、夫が就農する前年に仕事を辞めて、同じ農業士さんのところにアルバイトに行きました。同じ農家さんから学べてよかったし、困った時に相談できるつながりもできました。


さまざまな選択肢がある中で、お二人で、常によい選択をされてきたんですね


自分は「やってみなくちゃ、わからないよね?」という感じなんです。たとえば土づくりにしても、まずはやってみて、もし失敗してもその経験を次に活かせればいいんじゃないかと考えるタイプですね。


夫と私は性格が全く違っているんです。夫はもう、ピンと来たものはとりあえずやる人で、私は調べて調べて、失敗しないように固めてからでないと決断できない人。だから就農に向けても意見の違いはたくさんあったし、ケンカもたくさんしました。でも意見が違うからこそ、私が決めきれない時に決めてくれることもあり、徐々に前に進んでいけましたね。



融資と補助金を活用して、自己資金200万円で営農開始


農地はどのように確保しましたか?


最初はなかなか見つかりませんでした。農地が決まっていないとハウスの見積もりが取れないと聞いていたので、農業士さんに相談したら、鹿沼市農業公社まで同行してくださったんです。その時に、公社がいちご研修生用に確保していた農地を紹介してもらえて、今の場所に決まりました。


事業計画の作成はスムーズでしたか?


5年間の就農計画書については、市役所や農業振興事務所に行けば書き方を教えてもらえますが、ハウスの見積もりが来ないと、融資を受ける金額も決まりません。「なるべく安く」とお願いしたからかもしれませんが、提出期限があって書類を進めたいのに、なかなか見積もりが来ないので焦りました。


事前に用意した自己資金と、借入金はいくらくらいになりましたか?


当時の自分は無職で、本当にお金がなくて。自己資金は妻の貯金200万円でしたね。あとは補助金と融資のお金でやりくりしました。補助金については農業振興事務所やとちぎ農業未来塾で教えてもらって、鹿沼市の「いちご・にら新規就農支援事業費補助金」で限度額の300万円の交付を受けました。

日本政策金融公庫からの融資額は2,400万円で、肥料代や農薬代などの運転資金は、約1割の180万円で見積もりました。いちごが収穫できるまで、お金が回るかどうか心配だったので、運転資金や必要になる経費も全て計画に入れて、まとめて借りました。


無利子の青年等就農資金を利用して、2年据え置きで10年返済。次の作付けから返済が始まりますね。

夫がとちぎ農業未来塾で研修を受けている間は、農業次世代人材投資資金(現・就農準備資金)で年間150万円支給されました。

就農後は夫婦で農業次世代人材投資資金(現・経営開始資金)の交付(1.5倍)を受けました。夫婦だと年間225万円になります。5年間受け取れることになっていますが、前年所得が一定の金額を超えると支給されません。このお金は生活のあてにしないようにしています。


お金の不安については栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


品種は「とちおとめ」から。栽培方法は導入コストが抑えられる「土耕」を選択


栽培しているいちごの品種を教えてください。


栃木県の代表品種「とちおとめ」から始めました。「とちおとめ」の作り方をマスターできれば、ほかの品種も作りやすいといわれているんです。将来的に新たな品種が出てきたときにも対応できると思いました。

就農1年目は「とちおとめ」で、2年目が「とちおとめ」と新品種の「とちあいか」を半分ずつ。次作から「とちあいか」のみになります。


いちごには高設栽培(栽培ベンチで作業しやすい高さに上げた栽培方法)と土耕(どこう)栽培があると思いますが、栽培方法はどのように選択されましたか?


うちは高設栽培ではなく、土耕栽培です。土に苗を植えて栽培しています。先輩も研修先も土耕だったので、選択には悩みませんでした。高設栽培はかがまなくてもいいので作業負担は少ないですが、設備や肥料などの費用が高くなります。まあ、収穫時期はきついですけどね(笑)。


いちご栽培の、一年間の仕事の流れを教えてください。



いちごの親苗が届くのが11月。それを翌年3月、プランターに植えます。そこから苗を育てて増やし、9月中旬にハウスに定植したら、11月中旬〜5月まで収穫と出荷が続きます。その間にまた次の親株が来るので、毎年収穫と苗づくりが重なりますね。

繁忙期は3月。暖かくなるにつれ収穫量も増えるので、この時期がいちばん大変です。「4日収穫して、1日休み」のペースで作業をしています。その1日休みの日も消毒や育苗、経理などしながら出荷も並行するので、妻と交代で休んでいます。働き詰めだと続かないので、家族経営協定を結んでお互いきちんと休むようにしています。


収穫後の6〜9月は苗を育てながら、ハウスの中を片付けたり土づくりをしたりして次作に備えます。この時期は、1週間仕事して10日休みというスケジュールも可能なので余裕がありますね。


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年間売上1,350万円!就農2年目から黒字経営へ


現在、いちごの販路はどうされていますか?


地元のJAに全量出荷しています。できた分だけ出せるし、金額も決めてもらえるので、自分たちには合っていると思います。

直売所だと売れ残りを引き取りに行ったり、レストランと取引するにしても配送先が増えてしまいます。繁忙期は午前中に収穫して、それを午後に全部パック詰めしないといけないし、新たに人を雇わなければならないのであまり考えていないです。


就農当初から現在まで、売上の推移はいかがですか?


就農2年目の年間売上は約1,350万円で、ここから経費を差し引いても黒字になりました。2名いるパートさんには午前の収穫だけお願いしているので、パック詰めは夫婦ふたりでやってます。大変ですが、人件費がおさえられる分、利益率は高いです。


「とちあいか」は「とちおとめ」より収量が多いので、これからさらに売上は増える見込みです。1作目の「とちおとめ」だけの時より、2作目の「とちおとめ」と「とちあいか」半々の時の方が250万円ほど増えましたし、次作は全て「とちあいか」にするので、さらに200万円ほど増えると見込んでいます。今年は年間売上1,600万円、来年は1,800万円超えが目標です。


ハウスを増やさないと売上が増えないので、今後はハウスの数を倍にして、売上も大きく増やしたいと思っています。


就農について迷ったら栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ

 


将来は自分のような新規就農者、特に地元の人を受け入れられる存在になりたい


順風満帆にみえるお二人ですが、就農後の今、不安や課題はありますか?


従業員の調整が悩ましいですよね。今パートさんが2名いるんですけど、繁忙期は忙しくても、そうでない時期もあります。どれくらい人を入れればいいか、バランスが難しいです。そこを改善できれば、もう少し楽になるはずです。


従業員の雇用については、知っている人にお願いしたいので、身近な人から声をかけています。実は今いるパートさんのうち、1人は夫の母なんです。年間を通して来てくれますが、やることがない時は休んでもらっています。


農業をやってよかったと思うことを教えてください。


前職より収入も上がりましたし、正月やクリスマスなど忙しい時期もありますが、休みも自由にとりやすいです。何よりストレスが少なくなりました。勤めていた時は仕事に行くのが憂鬱な日もあったけれど、それがまったくありません。


私は、人との関わりがちょうどよくなったと思います。ストレスなく毎日生きられているし、何か起きても、自分で判断したことだからと思えます。傷がついて出荷できないいちごを近所の人にあげるといろんなものが返ってきて、おいしいものがいっぱい食べられるようにも(笑)。地域の温かみも知りました。


今後はどのような農家を目指したいですか? 将来の展望についてお聞かせください。


自分のような新規就農者を受け入れられる立場になりたいですね。若い頃は何も考えていなかったけれど、三十代に入って、そう思えるようになりました。特に地元、鹿沼の人の受け入れ先になれればいいですね。


私は50代ぐらいになって落ち着いたら6次産業化にチャレンジしたいです。パンを焼いたりお菓子作りも好きなので、加工でいちごのロスを減らしながら、自分の趣味を仕事にしてみたいですね。


最後に、農業に興味を持った方、特にパートナーと就農される方にメッセージをお願いします。


めちゃくちゃケンカしますよ(笑)。農業をはじめる前はケンカなんてしたことなかったけれど、自分で事業を始めるとぶつかるときもあります。大事なのは、ずっと一緒にいられるかどうか。繁忙期はどこにいても一緒で、それが半年間続きますから。本当に仲がよくないとできない。あとは、どちらかが「手伝う」のではなく、2人とも本気でやらないと難しいと思います。


私は毎日楽しいですよ(笑)。夫婦の場合、妻が支える側になることが多いと思うんですけど、農業経営(簿記など)の勉強はすごく大事ですね。夫には突っ走ってもらって、それで入ってくるお金の管理をきちんとやらないといけません。いちごがいくら採れたとしても、使い方ひとつで経営がダメになってしまいます。専門家にまかせることもできますが、自分たちでお金の回り方を知っておくことが大事だと思います。


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さいごに

農業未経験から就農2年目で黒字化を達成した島野さん夫妻。夫の優一さんは、栃木県の農業研修制度「とちぎ農業未来塾」で1年間いちご栽培の基礎と実践をしっかり学んだ後、その知識や技術を農業経営に役立てています。

ゼロからのスタートで、何から始めたらいいのかわからないという人も、栃木県には充実したバックアップ体制があります。まずは、気軽に相談してください。


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