事例紹介

自ら考え、情熱をもって働く「農業人(スペシャリスト)」集団を育てる(株)長谷川農場

栃木県足利市で循環型多角的農業を経営する長谷川農場。牛約700頭を肥育し、約30haのほ場で米、麦、アスパラガス、玉ねぎなどを生産しています。代表取締役の長谷川良光さんの長男、長谷川大地さんが就農したのをきっかけに、6次産業を手がけるようになり、2016年1月に農業法人を設立しました。
働き手のパッション(情熱)を大切にする長谷川農場の専務取締役・長谷川大地さんと従業員のお二人に、雇用就農の働き方について伺いました。



INFORMATION

株式会社長谷川農場

約70年前、先々代がいちご農家としてスタート。肥育牛約700頭、米麦17ha、アスパラガス1ha、玉ねぎ1.3ha、なす10aなどを生産するほか、6次産業も手がけている。
地元のマールを牛のエサに、堆肥を米麦や野菜の土づくりに活用する循環型農業を実践。
従業員はパートを含めると約20名。やる気次第でキャリアアップを目指せる制度も設けている。
https://hasegawa-noujou.jp/


祖父の代から約70年、地域と連携しながら循環型農業・複合経営を実践


長谷川農場は、2016年1月に農業法人化されていますね。農場の概要について教えてください。


長谷川農場では、牛の肥育と米、アスパラガスなどの栽培、6次産業を行っています。肥育している「マール牛」は、足利産の二条大麦や大豆、マール(ワインの原料となるぶどうのしぼりかす)などの飼料を食べて育った交雑種の牛です。2013年には、「足利マール牛」としてブランド化しました。


循環型農業や複合経営とは、どのような取り組みなのでしょうか?


牛の飼料となるマールは、地域のワイナリーから提供されたものです。ぶどうの種や皮など、産業廃棄物として捨てられていたワインのしぼりかすを乳酸発酵させて、牛に食べさせています。
牛は稲わらを食べますが、お米を育てるためには堆肥も必要です。稲わらをもらう代わりに、牛の堆肥を農家に譲るといった地域との連携で、祖父の代から循環型農業を実践しています。このあたりの農家は、ほとんど長谷川農場の堆肥を使っているんですよ。堆肥は、自社のアスパラガスやたまねぎなどの野菜にも活用しています。


牛の餌になるマール

複合経営については、畜産業と並行して自社で複数の農作物を育てることで、年間雇用を実現しています。
生産物の95%はJAに出荷していますが、オンラインショップやレストランへの直接販売も拡大中です。
2023年度の売上高は畜産で約5億5千万円、野菜で約5千万円です。


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従業員に求めるのはパッション(情熱)、意義、選択

従業員とのミーティングで話す長谷川大地さん

能力次第で役員も目指せる

長谷川農場ではどんな人が働いているのでしょうか?


農業系の学校を卒業して入社した人と、ほかの業種からの転身で農業を始めたいと言って来た人、半々くらいです。
地域に根差した農業を目指していることもあり、もとから近くに住んでいた人たちばかりで、平均年齢は32歳です。
興味をもっている人には、まず見学に来ていただいて、インターンを経験してもらった後に正式入社となります。


給与体系、勤務時間と福利厚生について教えてください。


基本給+職能手当という形態をとっています。基本給は年齢と経験によって異なりますが、全員大きな差はありません。その代わり、実績次第で職能手当が上がっていきます。


勤務時間帯は、作業内容によって変わります。休日は月に7日で、作業状況や自分の都合によって好きなときに休むようになっています。そのほかに、年休もあります。
福利厚生は、社会保険や年金、雇用・労災保険、勤続年数手当、家族手当、通勤手当もあります。


従業員のキャリアアップについて、どのようなモデルケースがありますか?


従業員のなかには、弊社で長く働きたいという人や、数年ここで働いてから独立就農を目指している人もいます。
独立するケースでも、入社時から最終的に独立を考えているわけではなく、3年くらい働いて先を考えたときに親の畑を継ごうと決めたというパターンもあります。


長谷川農場は、祖父から父、私と受け継いできていますが、今後もずっと家族経営をしていくつもりはありません。
やる気次第で、役員になれる可能性は十分にあります。いずれ社長を目指したいと言っている従業員もいますよ。



農園独自の取り組みや工夫されていることがあれば教えてください。


長谷川農場では、従業員に対して3つの目標を掲げています。


ミッション~果たすべき使命~100年先へ、農業をつなぐ
ビジョン~目指すべき理想の姿~日本一の農業集団になる
バリュ~具体的な行動指針~守りながら、進化する


毎年、部門ごとに自分たちの目標を立ててもらうのですが、その目標を達成できればその分収入も増えます。上から言われた目標と、自分たちで立てた目標ではおのずと意識が違ってきますから。
毎月の定例ミーティングで、目標の進捗状況を確認しています。


畜産業に携わる私たちは、牛たちによって生かされています。自分たちの給料やみなさんの食料になる大切な存在ですから、牛たちが快適に過ごせる環境づくりが何より大切です。
ここでは人間様ではなく「牛様」という気持ちで、仕事というよりはライフワークのように取り組んでくれているスタッフも多いです。みんな牛が大好きなので、きちんと手をかけて決して手を抜かない。牛さんもちゃんとこたえてくれますし、とてもかわいいですよ。


5年後、10年後を見据えて経営力強化を目指し、正社員を増員していく

長谷川農場 専務取締役 長谷川大地さん

雇用形態はどのようになっていますか?


現在の従業員は20名で、正社員とパート従業員が半々です。技能実習生も2名います。
今後は、できるだけ正社員を増やしていく予定です。
繁忙期にはパート従業員の力が大きいのですが、50年後、100年後の農業を考えて仕事できる人が必要だと考えているからです。


入社後の研修についてはどのように実施していますか?


ほかの農家への視察研修を行っています。そのほかにも、月例ミーティングで従業員から「こんなことを学びたい」という声があれば、勉強会を行います。


必要に応じて大型特殊免許の取得などもサポート

入社後に取得できる資格はありますか?また、どんな資格を持っていたら仕事に生かせるでしょうか?


入社時、既に大型免許を取得している人が多いので、その他、農耕車などの大型特殊免許、けん引免許の取得のサポートを行っています。
必要に応じて、フォークリフトの運転資格を取得するケースもあります。


就農するなら自分はどのタイプ?


入社時に大切なのは知識よりも「情熱」「持続力」

若い世代が目標を持ち、自主的に動ける環境づくりを実践する長谷川農場

長谷川農場では、若い世代がたくさん働いていらっしゃいますね。雇用するときに、重視していることは何でしょうか?


「農業に対する情熱を5年後、10年後も持ち続けていられるか」という点です。農業の知識や技術はやる気次第で、現場に入ってから覚えられますから。

私は「5年後、10年後に従業員の給料を倍にする」と約束しました。そのためには従業員全員が一丸となって、この仕事に情熱を持って取り組んでもらいたいと思っています。


これから新規就農を目指す人へ、伝えたいことはどんなことですか?


新規就農というと、独立就農をイメージする人が多いですが、まず雇用就農を経験することで向き不向きがわかることも多いと思います。新規就農のルートのひとつとして雇用就農を視野に入れるといいのではないでしょうか。

就職する前には、インターンなどの経験を経てからのほうが、従業員側も雇用側も相性がわかっていいと思います。朝早い仕事なので、通勤に時間がかかるようだとしんどくなりますので、生活圏内での就農をおすすめします。


農業の魅力は「人が生きるための根源となるもの」を作っていることだと思うんです。もしも二次産業、三次産業がなくなるような世の中になったとしても、食べて生きるための一次産業がなくなることはありません。だから、もっと見直されるべき職業だと思うんですよ。


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農場長インタビュー「自分に合った働き方を模索できる」

アスパラガスハウスで作業する紙谷友輔さん

家族のために安定した雇用就農を選択

農場長の紙谷友輔さんにお話を伺います。
ご自身が担当している業務について教えてください。


入社して3年になりますが、現在は農場長として正社員5人、パート従業員5人の部下をまとめる立場です。
アスパラガスを中心に、たまねぎやじゃがいも、なすなどの栽培管理を担当しています。作業は、肥培管理や病害虫防除、枝草勢管理、それから収穫などです。


長谷川農場に就職する前は何をなさっていましたか?


ここに来る前は、2つの業界で働いていました。直近は鉄工所に8年間勤めていました。


長谷川農場で栽培されているアスパラガス

就農のきっかけや、長谷川農場で働いてみたいと思った理由を教えてください。


きっかけは、祖父が農家だったことです。高齢で畑の管理が難しくなり、畑が放置状態になってしまわないようにと手入れしているうちに楽しくなり、本格的に農業を目指してみようと思うようになったんです。
子どもがいるので、安定した収入が得られる雇用就農がいいのではと考えて、何か所か農業法人の見学に行きました。
長谷川農場でも作業体験をさせてもらい、雰囲気がいいなと感じたことと、自宅からの通勤に無理がないということが決め手になりました。


勤務時間・休日など福利厚生について教えてください。


サラリーマン時代は土日休みが当たり前の生活でしたが、月に7日間、業務と自分の都合で休めるようになっています。二人の子どものことで平日休みたいと思ったときに、以前よりも休みやすくなりましたね。
勤務時間は時期によって変わります。アスパラガスの収穫期には、朝5時くらいから作業をすることもあります。
給与は毎年アップしているので、それが仕事のモチベーションにもなっています。


コミュニケーションを大切にし、何でも言い合える環境を作る

長谷川大地さんと紙谷友輔さん

社内(農園内)の雰囲気はいかがですか?


この仕事は朝が早いですし、夏は暑くて冬は寒い。体力的にきついときも多々あります。だから、コミュニケーションはまめにとるように心がけています。きついときは「きつい、しんどい」と言えるだけでもずいぶん気持ちが楽になりますから。
気軽になんでも言える環境で、いい雰囲気で仕事ができていると思います。


今後、長谷川農場でどのようにキャリアアップしていきたいですか?


新しいことにチャレンジして、仕事の幅を広げていきたいですね。作物によって作業は違うので、いろいろなものを作ってみたいです。
栽培ノウハウは、ひとつのやり方が正解というものでもなく、農家によっても違うので、常に試行錯誤しています。たぶんこの先何年経っても疑問は出てくるでしょう。その答えを見つけていく過程がおもしろいと思うんです。
育てるだけでなく、収穫した野菜の加工など、1つひとつ知識を広げて技術も身に付けたいです。



農業法人への就職を検討している人へのアドバイス、メッセージなどをお願いします。


就農した人の中には、いきなり独立就農して、理想と現実のギャップに悩む人もいると聞きます。憧れだけで農業に足を踏み入れて、後悔する人もいるかもしれません。
でも、農業法人なら定期収入があるから生活に困るようなことはありません。体力と「やりたい」という気持ちがあれば、安心して農業に専念できますよ。


農業への道をベテラン相談員がサポート

 


牧場長インタビュー「若い世代が多く、活気あふれる職場」

長谷川大地さんと市川元基さん

中学生のころから長谷川農場を見学し、社長にも相談を重ねた

牧場長の市川元基さんにお話を伺います。
ご自身が担当している業務について教えてください。


20歳で入社後、1年半が経ったときに前任者が退職したタイミングで牧場長に就任しました。
業務は牛の飼育管理です。秋には、牛にあたえる稲わらを集める作業も行います。農場の繁忙期には、トラクターでほ場に出て収穫作業をすることもあります。


長谷川農場での雇用就農を選択した経緯について教えてください。


農業高校から、農業大学校の畜産学科に進学しました。
中学生のころ、野菜の栽培に興味をもっていて長谷川農場のアスパラガスの畑を見学させてもらいました。農業高校で学ぶうちに、自分は畜産のほうが合っているのではないかと思うようになり、社長の長谷川良光さんにも相談に乗ってもらい、畜産学科に進んだんです。2年後に卒業して長谷川農場に就職しました。


長谷川牧場のマール牛

長谷川農場で働いてみたいと思った理由を教えていただけますか?


地域に根差した循環型農業を営んでいるというところが魅力的でした。地元のブランド牛を育てているというところにもひかれました。


勤務時間・休日など福利厚生について教えてください。


朝7時から午後4時半までの勤務で、月に7日、その他年休がとれます。何曜日が休みというのは決まっていないので、仕事の状況も考えながら好きなときに休みをとっています。
福利厚生はしっかりしていると思っています。基本的な社会保険や年金に入っていますし、諸手当もいろいろついています。


働きやすい環境づくりを常に全員で行い、どんどんやりがいが増えていく

毎日、正午前に行われている社員ミーティング

社内(農園内)の雰囲気はいかがですか?


みんな若いので、楽しく、和気あいあいとやっています。
新卒の人も、ほかの業種から就農してきた人もいますが、それぞれの経験から情報交換ができるので、お互いに刺激になっています。
社長の長谷川良光さんも、専務の長谷川大地さんも従業員の話をしっかり聞いてくれて、困ったときにはアドバイスをくれます。
働きやすい環境づくりを常にみんなで模索しているので、どんどん働きがいがある職場になっています。


今後、長谷川農場でどのようにキャリアアップしていきたいですか?


今の役職を全うしながら、従業員みんなが活躍できるように、働きやすさも考えて会社の仕組みや土台をつくっていきたいと思っています。
自分の業務範囲の拡大も視野に入れていますが、その前にまずは任されている業務をしっかりやって成績を上げていきたいですね。


農業法人への就職を検討している人へのアドバイス、メッセージなどをお願いします。


新卒で農業を目指す場合は、栃木県なら農業大学校に入ることが早道ですが、学生時代からいろいろな現場を見学してみることをおすすめします。こういう仕事ができるんだ、ということを少しでも知っておくと、視野が広がるのではないでしょうか。
農業大学校で学ぶ人のなかでも、雇用就農を希望する人が増えていると思います。農業法人への就職を考えるなら、働きたい会社の社長の考え方や職場の雰囲気、福利厚生などをリサーチしておくといいと思います。


ベテラン相談員がお話をお聞きします。遠方の方はオンラインでも!


 


さいごに

長谷川農場の従業員の皆さんは、情熱にあふれ、楽しそうに仕事をしているのが印象的でした。全員で働きやすい環境づくりに取り組み、よりよい職場にしていこうという意気込みを感じました。

雇用就農に興味がある方は、まず農業体験やインターンシップなどに参加してみてはいかがでしょうか。


迷ったらとりあえず相談

こうかな?どうかな?と
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