事例紹介

家業のなし農家を継ぐ前に農業法人で5年間修行!師匠から学ぶことのすべてが成長の糧になる

幼い頃から家業のなし農家を手伝い、後を継ぐつもりでいたという本田祥輝さん。農業大学校へ進学し、学校のカリキュラムの「1カ月研修」で山口果樹園へ。代表・山口幸夫さんから指導を受ける中で、農業を行うには、管理や栽培技術だけではなく、人とのつながりの重要性を実感。親元就農をする前に農業法人に勤めて見聞を広めた本田さんに、修行で得られた「学び」や「気付き」を教えてもらいました。



INFORMATION

本田 祥輝さん

ほんだ・よしきさん|栃木県上三川町出身の24歳。家族で営むなし農園の三代目。栃木県農業大学校在学中に山口果樹園で研修を受け、卒業後は同園で働きながら栽培や経営を学んでいる。並行して実家のなし農園での作業も精力的に行っており、2025年4月からは本格的に親元就農予定。


株式会社山口果樹園の会社概要

所在地:栃木県宇都宮市

栽培品目(栽培面積):なし(345a)、ぶどう(若木含む)(40a)、
           ブルーベリー、キウイフルーツ、レモン、いちじく、柿、フィンガーライム(約70a)

従業員数:18名(パート従業員含む)

売上高(2023年度):年商8,500万円。
            1億円以上を目指します。

ホームページhttps://yamaguchi-kajuen.com/index.html

品質と環境に配慮した農業を実践し、品質の高さが評価され、第14回全国果樹技術・経営コンクールで農林水産大臣賞を受賞。2021年にはGLOBALG.A.P.認証を取得。農福連携も実施している。38年間、毎年研修生を受け入れている。


果樹農家での修行を決意し、働きながら栽培や経営について学ぶ


本田さんのご実家は、なし農園を営んでおられるそうですね。山口果樹園での雇用就農を選んだのは、どのような理由からでしょうか?


幼いころから家業を手伝っていて、仕事も好きでしたし、親の後を継いでなし農家になると決めていたんです。農業高校を卒業後、栃木県農業大学校の果樹コースに2年間通いました。同じ志を持つ仲間に出会いたいと思ったのも、農業大学校への進学を決めた理由のひとつです。
農大1年生のときに農家での1カ月研修があり、学校から紹介されてお世話になったのが山口果樹園でした。


研修後、山口社長に「いつでもおいで」と声をかけてもらいました。こんなに大きな果樹園はなかなかないですし、どういうことをやっているのか興味もあって、時間があるときにアルバイトをさせてもらっていました。
農大卒業後も、まだまだ教えてもらいたいことがあったので、5年間で徹底的に学ぶと決めて、こちらでお世話になっています。


山口果樹園で働きながら、ご実家のなし農園でも作業をされているのですね。


今は、働きながら修行をしているのですが、できるだけ家の仕事も手伝いたいんです。
山口社長にも事情を考慮してもらい、柔軟な働き方ができています。午前中はここで働いて、午後は家に戻って仕事をするときもありますし、必要に応じて休みが取れるようにしてもらっています。
家の作業に必要な大型機械や道具を貸してもらうこともしょっちゅうあります。


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仕事を単なる作業として捉えるのではなく、遊び心を持って取り組む


農業は「何でも屋さん」でなければいけない

山口果樹園で、本田さんが担当している業務内容を教えてください。


勤務時間は8時半から17時までで、忙しいときは多少前後することもあります。収穫時期は、収穫と出荷前の選別が主な業務で、それ以外の期間はせん定など木の管理、草刈りなどもしています。
山口果樹園では、なし以外のさまざまな果樹があるので、臨機応変にやっていますね。
栽培に関すること以外にも、農業経営や施設の管理、販売に関することまで、すべてに関わらせてもらっています。


日ごろは、どのような指導を受けていますか?


技術の習得は、話を聞くだけではできません。山口社長は「まずはやってみて」と言って作業を任せてくれます。その上で、「こうしたらもっとよくなるよ」というふうに、やり方を教えてくれます。
「仕事を単なる作業として捉えるのではなく、広い視野を持って取り組む」ことの大切さも教えてもらいました。僕は車いじりが好きなのですが、そういう遊びから機械修理ができるようにもなります。農業はいろいろな機械を扱うので、遊びのなかから得た知識が仕事に役立つんですよ。


果樹は40年、50年と育てていくもの。先を見据えることの大切さを学んだ


山口果樹園での学びのなかで、自分自身が成長したと感じる部分や、印象に残っていることはどんなことでしょうか。


果樹は植えてから40年、50年と育てていくものなので、先を見据えることの大切さを学びました。たとえば、なしの木を定植するときに、生長して大きくなったときのことを考えて棚を作っておく必要があります。今は棚の高さが高いと思っても、重さで枝が下がり、木を支える棚線も下がってきますから。長く使うものだから、先々のことを考えてやらないといけないんです。


ここでは、施設や設備、機械が壊れたときも、できるだけ業者に頼らず自分たちで修理するんです。そうすれば、経費の削減にもなりますし、修理を依頼している間に滞る作業も、自分で直せれば5分や10分程度で済むこともあります。山口社長は、専門的な技術が必要な修理も、自分で行ってしまうところがすごいなと尊敬しています。

以前、台風で実家のなし園の網が飛ばされてしまい、棚の修理が必要になったことがありました。業者に依頼しないといけないレベルでしたが、自分でできそうな部分をできるだけ自分でやってみて、修理できたときは、大きな自信にもつながりました。


山口果樹園は規模が大きく、作業を効率的に進めていくためには、必要な時期に必要な人員を適切に配置していかなければいけません。
自分の家のなし農園は家族経営で、栽培面積も少しずつ広げているところです。これまで従業員を雇うということがなかったので、人を実際にどのように動かしていくのか、とても勉強になっています。

農家は、人や地域とのつながりも大切だということも実感しています。山口社長の元にはたくさんの人が集まり、そのなかで情報収集したり助け合ったりしてきたからこそ、ここまで大きくなってきたのだと思います。家族で協力してやっていくのはもちろんですが、自分も人とのつながりを大切にしながら農業をしていきたいです。


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果樹栽培の魅力を、若い人たちに伝えられるような農家をめざす


実家の果樹園では約20種類のなしを栽培。20aの畑では新たな試みも

山口果樹園での修行後、2025年4月からはいよいよ本格的に親元就農がスタートするそうですね。ご実家のなし農園の概要について教えてください。


畑の面積は2haで、両親と自分で管理しています。幸水、豊水、新高、にっこりを中心に、収穫時期がずれるように20品種ほど栽培していて、直売所で販売するほか、道の駅やJAにも卸しています。
そのほかに、20aの実験畑でジョイント栽培などの新しい技術を試しています。ジョイント栽培に挑戦して6年目になりますが、自分の園地は1本仕立てや2本主枝での栽培が合っているかな、とわかってきたところです。


反収を増やし、10年後には売上5,000万円超えを達成したい


本田さんにとっての果樹栽培の魅力や今後の目標について教えてください。


市場出荷だけでは、消費者の反応が聞ける機会はほとんどないと思います。家には直売所があるので、お客様から直接「おいしい」という声を聞けるのはうれしく、やりがいを感じます。いただいたご意見を反映させながら更においしいなしを作っていきたいです。
現在の売上は2,000万円ほどですが、栽培面積はこのまま維持しながら反収(※)を増やすことが目標です。10年後には5,000万円超えを達成したいですね。


反収(たんしゅう)とは

約10a(一反)あたりの収穫量。収穫量÷耕作面積で計算する。「反」という単位は、日本の伝統的な尺貫法から生まれたもの。戦後に法律で廃止されたが、今でも農業の現場では「反収」という言葉が日常的に使われている。
 


農家って、試行錯誤しておいしい食べ物を作る努力をしている人たちがたくさんいるんです。そんな農業の魅力を若い人たちに伝えながら、農園を発展させていきたいです。


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山口果樹園 代表取締役インタビュー「若い世代に農業経営のあらゆる可能性を示したい」


先代のときから38年間にわたり研修生を受け入れてきた

山口果樹園の代表取締役社長でありJAうつのみやの理事、栃木県認定エコファーマーでもある山口幸夫さんにお話をお伺いします。
こちらでは、以前から多くの研修生を受け入れているそうですね。


私が代表に就任したのは30年前の28歳のときですが、父の代のときから38年間いつも研修生がいる環境です。研修生だけでなく、社会人や高校生、大学生もやって来ます。

本田くんは、農業大学校時代も合わせると、ここに来て7年になります。それだけいれば、子どもも同然、親戚のような感覚です。彼は小さいころから家のなし農園の手伝いをしっかりしていたので、何をやらせてもできるし、とても優秀ですよ。


研修生をはじめ従業員の方には、どんな指導をされていますか?


スタッフと一緒に作業をしながら教えています。作業でのちょっとした失敗は全部勉強になっていくことなので、あまり気にしません。あとで、これはこうした方がいいんじゃないの?というふうに声をかけます。

スタッフとは年に1〜2回面接をしています。社員やパート従業員、今後独立就農をめざす人など、それぞれの役割に応じて話をしますが、雇用就農で働いている人も、自分で経営をしたくなったという場合は、仕事も指導方法も変えていきます。独立をめざす人には経費から何から、経営に関することも教えていかないといけませんから。


農業法人では多くのスタッフが働いていますから、その人に応じたキャリアアップの選択肢も必要になってくるのですね。


手塩にかけた果実が消費者に喜ばれる。その瞬間が果樹栽培の最大の醍醐味


山口さんが考える、果樹の魅力とは何でしょうか?これから果樹栽培をめざす人へ、伝えたいことはどんなことですか?


果樹栽培は、苗木を植えてから初めて実をつけるまで4〜5年かかります。投資の期間が長いぶん、実がなった時はうれしいですね。育てた木が実をつけた時の喜びは格別で、自分が手塩にかけた果実が消費者に喜ばれる瞬間は、果樹栽培の最大の醍醐味(だいごみ)です。


果樹栽培での独立は、新規で始めるには難しい面もありますが、しっかりとした計画と努力があれば、大きな可能性があります。夢を持って、挑戦してみて欲しいです。農業に少しでも興味をもっていただいて、まずは、農業法人や農家で働いてみて、しっかりと学んでから自分の農園を持つのがおすすめですね。


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一度外へ出てみる。ほかの農家から学ぶことで自分自身が成長できる


親元就農を目前に控えている本田さんから、果樹栽培や親元就農を考えている人に、アドバイスやメッセージがあればお願いします。


農業は自分が頑張った分だけ、いいものが収穫できるので、努力次第で理想を実現できる仕事です。家業を手伝うだけだと考え方に偏りが出てしまうかもしれないので、一度はほかの農家で勉強させてもらって、さまざまな考え方や経営方法を知るのがいいと思います。


自分の家のやり方だけにとらわれず、ほかのやり方を取り入れれば、成長もできる。農業は、自由にできる部分が多い仕事です。自分で計画を立てて、実行すれば成果を感じられるはずです。挑戦してみて欲しいと思います。


さいごに

10年後、20年後の未来を見据えて、果樹栽培に真摯に向き合う本田さん。山口さんの教えから学び、着実に自分の成長へと結びつけている姿が印象的でした。本物の親子のような師弟関係を築いている2人。親元就農をする前に、親とは別のメンターに出会える農業法人で働くことは、新規就農者にとってメリットだらけだと感じました。農業の世界に飛び込もうか迷っている人は、一度雇用の形で農業に携わってみてはいかがでしょうか。


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