1. 農業は食を支える基幹産業。その仕事内容と携わり方とは?
農業とは、その土地の自然環境を利用して農産物を生産し、出荷して利益を得る産業です。わたしたちの生活に必要不可欠な食べものを供給する重要な産業でもあり、環境保全や地方活性化を担うといった大きな役割も果たしています。
農業の仕事に就くことを「就農(しゅうのう)」といいますが、これには実家・親戚が営む農業を継ぐことや農業以外の職種から農家に転身することだけではなく、農業法人に就職・転職することも含まれます。近年、栃木県では就農する人が増加傾向。何やら農業には他の職業にはない魅力があるようです。さて、その魅力とは――
1.1 自分次第で可能性が広がる! 農業の仕事内容とその魅力
農業の主な仕事は、農作物を育てること。土づくりや苗の植え付け、肥料やり、病害虫対策など、日々のさまざまな手入れを積み重ねることで、収穫することができます。自然との関わりが深い仕事なので、天候に左右されるなど思い通りにいかないこともありますが、四季の移ろいを肌で感じながら働くことができるのは、農業の大きな魅力のひとつ。また、手塩にかけて育てた作物を収穫できることの達成感、さらには収穫した農作物を消費者に喜んでもらえることの充実感は農業だからこそ味わえるものでしょう。
自営農業者なら、自分の裁量で栽培計画から販売方法までのすべてを決められ、努力や工夫次第で稼げるチャンスが広がります。栽培する作物や作型によって農閑期や年間の作業スケジュールが異なるので、就農するときは自分が実現したいライフスタイルと照らし合わせて栽培品目を選ぶとよいでしょう。また、自営農業者には定年がないので生涯現役で働くことも可能。農業者は健康寿命が長いという研究結果もあります。
1.2 農業の仕事に就く「就農」には、大きく分けると3タイプあり
タイプ1:実家の農業を継ぐ「農家後継」
親や家族が営む農業に従事し、将来的に後を継ぐタイプ。農地や施設・機械、販路など、就農に必要なものがすでにそろった状態でスタートすることができます。また、身近に農業経験者がいるため、就農後でも営農技術の指導をいつでも受けられるのが特徴です。就農を契機に、新品目を導入し、親とは部門を分けて経営を開始する場合もあります。
タイプ2:起業して一から農業をはじめる「新規参入」
農地や資金を自分で確保し、農業をはじめるタイプ。農作物を栽培するだけでなく、場合によっては販路の開拓など経営者としての仕事も行います。栽培技術の習得や初期費用の準備など、就農までに越えなければならないハードルはたくさんありますが、就農先や栽培品目の選定、年間のスケジュールなどを自分の裁量で決められるという魅力があります。
タイプ3:農業を営む企業で働く「雇用就農」
企業として農業を営む「農業法人」に就職し、従業員として農業に従事するタイプ。新規参入のように農地・資金などを確保する必要がなく、また安定した収入を得ながら農業に携わることができます。農業法人で働いてスキルを身につけてから独立就農するケースも。農業法人の求人を探すには、ハローワークや民間の求人サイトの活用だけでなく、就農フェアなどのイベントに参加することも有効です。
2. 農業ってどうやってはじめるの? 最初に知っておきたいポイント
就農には3つのタイプがあることを先にお伝えしましたが、実際に農業をはじめるにはどうしたらよいのでしょうか?ここでは、就農に興味をもったらぜひ知っておきたいポイントをお伝えします。
2.1 自分のやりたい農業をイメージすることからスタート
ひと口に農業といっても、栽培する作物や栽培方法は多種多様です。また、自分が経営者になるのか、農業法人に勤務するのかといった働き方もさまざま。目指す農業によって就農までのアプローチが異なるので、まずはできるだけはっきりと将来像を描くことからはじめ、情報収集をしながら自分に合った農業スタイルを探しましょう。
2.2 どんな作物を栽培するかによって働き方が変わる
農業の年間スケジュールには、農作業が多忙な「農繁期」と農作業が少ない「農閑期」があります。これらの時期は、栽培する作物によって異なります。まとまった休みを取りたい時期を軸に栽培品目を決めるのもひとつの選択方法です。また、複数の栽培品目を組み合わせて、年間を通して労働量を平準化する働き方もあります。
2.3 収穫した農作物はJA出荷で安定した販売をするケースが多い
新規参入の場合、収入に直結する販路の確保は欠かせません。生産量や品質が安定するまでは、出荷団体に頼らず独自に販路を開拓し、スーパーやレストランなどに直接販売するケースもありますが、生産者としての信用や知名度が乏しい新規就農者が個人で販売するのはなかなか難しく、JAなどの団体に出荷し販売をするケースが多いです。JAでは個々の生産者が栽培した農畜産物を集荷し、サイズ・品質・規格を選別して安定的に市場へ出荷するので、新規就農者であっても規格等を満たしていれば確実に収入を得ることができます。
2.4 より詳しく知るなら就農相談窓口へ!
就農に興味をもったら専門の窓口で相談しましょう。先にお伝えした通り、農業のスタイルはさまざまです。目指す農業や就農地によって相談先は異なるので、まずは(公財)栃木県農業振興公社をはじめ、最寄りの自治体や農業振興事務所、JAなどにご相談ください。
3. 栃木県ではどのような就農タイプが多い? 栽培品目のトレンドは?
農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、2018〜2021年の全国の新規就農者数は毎年5,500人前後で、おおむね横ばいで推移しています。では、近年の栃木県においてはどうでしょうか?
3.1 雇用就農が増加傾向。女性の新規就農も増えている!
栃木県の新規就農の動向について、栃木県農政部経営技術課の「令和4(2022)年度新規就農者調査結果」によると、新規就農者数は2015年度以降、毎年300人を上回って推移していることがわかります。2022年度(2021年5月〜2022年4月)においては370人に上り、雇用就農の調査を開始した2013年度以降、最多を更新。このうち、自営就農者(※1)は226人、雇用就農者(※2)は過去最多の144人という結果でした。新規就農者数が増加している背景には、産地の受け入れ体制や支援制度が充実してきていることが主な要因とみられます。
女性の新規就農者数も3年連続で増えています。2022年度は、前年度比24%増の94人で、このうち自営就農者数は51人、雇用就農者数は43人です。近年の女性活躍の機運が農業においても高まり、女性が経営者や農家後継者となるケースも増加傾向にあります。
※1 自営就農者:令和2年度までは「経営主である者、農業経営を継承する者、将来自らが農業経営を行う事が確実と見込まれる者」のみ。令和3年度から経営に従事する「パートナー等」を含めて集計
※2 雇用就農者:親族以外の者が経営する農業法人等に新たに正規雇用として就業した者
3.2 とちぎの新規就農者に人気の栽培品目とは?
過去3年の自営就農者のうち、6〜7割が野菜を栽培しています。このうち最も多い品目は「いちご」。2022年度(2021年5月〜2022年4月)においては、自営就農者226人のうち71人、つまり全体の3割がいちごの生産者になりました。
いちご栽培が選ばれる理由として、自治体やJAの研修制度が充実しているのをはじめ、栃木県農業大学校で日本初となる「いちご学科」が開設されるなど、県内において就農をサポートする体制が整っていることが挙げられます。
また、いちご以外で人気の施設野菜は、アスパラ、にら、トマト。露地野菜では、ネギやなすが人気で、有機栽培の希望者も増加しています。
3.3 農業の1年間の仕事とは?
種まき、苗植えから収穫までの農作業は、栽培品目によってさまざまです。ここでは、県内就農者の栽培品目として最も人気のあるいちご栽培について、おおまかな年間スケジュールを紹介します。
4. さいごに
農業は、生活に必要不可欠な「食」を支えるだけでなく、環境保全や文化的役割なども果たす、社会的に意義のある営みです。その仕事内容や携わり方は多種多様で、ここで紹介したものはほんの一例に過ぎません。少しでも農業に興味をもったら、身近にいる農業従事者に話を聞いたり、就農相談窓口に問い合わせたりして生きた情報を手に入れましょう!