コラム

農業キャリアコンサルタントに聞く農業法人への就職・転職③雇用就農先の選び方

近年注目を集めている「雇用就農」という働き方。農業法人への就職や転職を選ぶ人が増えています。
農業キャリアコンサルタントの吉村康治さんに、農業を取り巻く現状や、農業法人での就職・転職先探しのポイントなどをお伺いしました。
最終回となる今回は、実際に就職先・転職先を選ぶ際に確認すべきポイントを解説します。



INFORMATION

吉村 康治 氏

株式会社あぐりーん 代表取締役。国家資格キャリアコンサルタント。大学卒業後、大手人材派遣会社に就職。地方支店の立ち上げなどを担当する中で、地方都市の農家で求人の需要があることを知る。2009年のリーマンショックでいわゆる派遣切りを見て、農業が受け皿になるのではないかと考え、同年に農業分野に特化した人材事業会社を設立。農業求人サイト「農家のおしごとナビ」の企画・運営をはじめ、就農につながる「本気の」農業体験や、農業に関する各種イベントも主催する。また、農業法人の採用戦略立案や会社説明会等の運営サポートも行っている。
https://www.agreen.jp/


農業法人、ココをチェック!


求人票に記載されている内容では、わからないこともたくさんあります。事前の問い合わせや面接の際に、いくつかのチェックポイントを確認してみてください。


ポイント①会社の理念やミッション

理念やミッション、あるいはビジョン(目標)が定められているのかは大きなチェックポイントになります。企業理念やミッションを明確に掲げているのは全法人のうち45%程度といわれています。また、掲げていても従業員に浸透できていないケースも多いです。もちろん、農業法人の中には、ビジョンや理念を明確にし、従業員にしっかりと浸透させている企業もあります。


経営は山登りにたとえられます。なんのためにその山に登るのか、どれくらいの行程なのか、目的や目標がないとしんどいだけです。みんなで同じ目標に向かって進んでいけるというのは、大きな励みになります。


ポイント②給与・福利厚生

他業種から農業に転職する場合、給与が低く感じられることがあるかもしれません。しかし、たとえ農作業の経験がなくても、他業界で経験してきたこと(例えばマネジメントや経理、広報などのスキル)を活かせる部分をアピールし、給与交渉をすることが大切です。

また、農繁期(最も忙しい時期)にどれくらいの労働時間が必要で、どのような働き方になるのかを事前に確認しておくことも重要です。この時期には、休みが取りにくかったり、1日の労働時間が長くなったりすることがあります。


ポイント③就業規則・労働条件

従業員が10人未満の法人では、就業規則の作成が義務付けられていないため、雇用主から詳細な規則が提示されないこともあります。後々のトラブルを防ぐためにも、労働条件が明確に記載された労働条件通知書を必ず受け取るようにしましょう。


ポイント④作物や畜産物の種類


野菜や果樹、水稲、花き、畜産などさまざまな農家があります。イメージだけで選ぶのではなく、実際の仕事内容や働いている人がどのような点にやりがいを感じているのかなどを知ったうえで、自分が何をやりたいのか、何が合うのかを見極めてください。
同じ野菜農家の仕事でも、多品種少量生産の農家と少品種大量生産の農家では仕事内容も変わってきます。
有機栽培、減農薬野菜を作っているといった特色をもつところもあります。それぞれの農家の思いを聞き、自分の理想に近いところを選びましょう。


ポイント⑤業務内容とスキル

求人票には「農作業全般」と書かれていることもあり、今、その農家でどんなポジションの人が必要なのか、何を期待されているのかがわかりにくいことも多いです。
前述したように、求人ごとに求める人材像は異なるはずですので、どんな役割を担うのか、どんなスキルが必要なのかを確認し、ミスマッチにならないようにしましょう。自分が理想とする働き方に合うかどうかを軸に考えるのがポイントです。


ポイント⑥未経験でも受け入れられる体制があるか

求人票には、99%が「未経験者歓迎」と書かれています。ただ、「未経験者歓迎」と「未経験でも働きやすい」は別ものです。「最初の3カ月はこういう仕事から」「マニュアルを用意しています」「1日ごとに振り返りの時間を設けて指導します」など、具体的に示してくれているところだと安心です。


ポイント⑦成長の機会とキャリアパス

入社後、どれだけ自分に仕事を任せてもらえるのか、やったことを評価してもらえるのかといったことも働くうえでの大切な要素になります。研修体制や必要な資格サポートなどが明記されているところもあるのでチェックしてみてください。未経験で入った人が2~3年後に何をしているのか、というのも参考になります。


ポイント⑧経営者やスタッフの人柄や雰囲気

最も気になるのは職場の人間関係でしょう。経営者がどんな考えをもっているのかというのは働きやすさに関わってきますので、そこを面接で聞くといいでしょう。
その他、SNSでの発信内容から普段の様子がわかることもありますし、可能なら数日だけでも作業体験させてもらうと、日頃どんなふうにコミュニケーションをとっているのかが見えてくるでしょう。


自分がどんな組織でどんな働き方をしたいのか、仕事そのものに何を求めているのか、求職活動に入る前に明確にしておきましょう。そこがはっきりしていれば、希望に合ったところを探せばいいのです。
今までのキャリアの棚卸をし、自己分析を行い、どんなときにやりがいを感じてきたのか、何を大切に生きてきたのかをあらためて考えてみることをおすすめします。

選択肢はたくさんあります。自分がやりたいことを実現できるところを選びましょう。


雇用先の形態による違いはある?

雇用での就農先は、以下の3通りです。

 

会社法人
会社法人には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社などがあり、一般的な企業と同様に利益を追求する組織形態です。社長を中心に従業員が働くため、意思決定がトップダウンで行われることが多く、物事が迅速に進むのが特徴です。また、技術革新が起こりやすく、成長しやすいという利点もあります。昇給を目指すなら、こうした会社法人で働くことが一つの選択肢となるでしょう。

 

農事組合法人
農家同士が協力して農業を行う組織で、機械の共同購入などを通じて経費削減や効率化を図ります。すべての判断は組合員全員で話し合って決めるため、決定に時間がかかることもあります。この形態は、地域に根ざした農業を実践し、地域とのつながりを大切にしたい人に適しています。

 

個人経営の事業者
個人事業として営む農家には、家族で農業を続けている伝統的な農家や、将来的に法人化を計画している農家など、さまざまな形態があります。

代々家族で営農している場合、長年の経験と地域に根ざした技術を持ちつつ、伝統や家族の価値観を大切にしています。
一方、将来的に法人化を目指す農家は、経営規模や売上金額などはさまざまですが、規模拡大に向けて、経営者と一緒に経営発展に取り組んでいけるのも魅力です。


さいごに

農業は大きな転機を迎え、未経験の人にも広く門戸を開いています。Uターン、Iターンを考えている人も、異業種での経験を活かしながら就農できるチャンスです。やればやるだけ結果につながるのが農業のいいところ。どこの農業法人で働くかによってその後のキャリアは変わる可能性もありますので、農業で何を目指したいのかビジョンをはっきりさせ、実現に向けてチャレンジしてください。


農家の方たちと話していていつも思うのは、皆さん笑顔が素敵だということ。この仕事を心の底からやりたくて意欲的に取り組んでいるんだろうなと感じます。
これから農業を目指す人たちにも、今もっている「やりたい」気持ちを大切にして、夢を実現してほしいと思います。
スマート農業や自社での加工、海外展開など、農業の可能性は無限大に広がります。これからの農業をよりよいものにしていけるよう、応援しています。


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