まずは体験!農業インターンシップで不安を解消
農業に興味があるものの、近くに農家がいないため実際の作業内容がわからなかったり、自分に農業ができるか自信が持てなかったりする人におすすめの制度が農業インターンシップです。この制度では、農業の現場で短期間の就業体験ができます。実際に体験することで、農家がどのような仕事をしているのか、自分が農業に向いているかなどを確認できます。
また、今後新規就農者研修を受けたいと考えている人や農業法人などへの就職・転職を希望する人が、研修先で短期間インターンシップを経験することで、受入農家や農業法人との相性を確認することができます。
農業インターンシップに参加するメリット
農業インターンシップに参加すると、実践的な農作業を体験できる、自分の適性が確認できる、農家との関係性を築けるといったメリットがあります。
実践的な農作業を体験できる
1日だけの農業体験では、わからないこともたくさんあります。短期でも農業インターンシップに参加して実際に農家で働くことで、書籍やインターネットでは得られない実践的な知識を得ることができ、自分に合っているかどうかの判断にも役立ちます。実際に体験した方々からは「体力だけでなく、農薬の調製など意外に頭を使う場面が多い」「農機具の進化で想像していたよりも作業が効率的だった」「毎日の変化に対応する柔軟性が必要で、大変だがやりがいがある」といった多様な声が寄せられています。
農業への適性、品目・地域・研修先との相性が見極められる
研修中に理想とのギャップや経営の難しさに直面し、農業をあきらめるケースは少なくありません。就農には準備期間や多額の費用が必要なため、事前にインターンシップで現場を体験することが重要です。
インターンシップでは、農業への適性、品目、就農地域が自分に合っているか、また研修先との相性も確認できます。もし合わないと感じた場合、別の選択肢を探すことも可能です。懸念点を解消した上で研修や就農をスタートすれば、安心して取り組むことができます。
農業の仕事は、作物の栽培や家畜の世話に限らず、出荷・販売や経理など多岐にわたります。受入先農家の方に、どのような知識や能力が求められるかを確認しておくといいでしょう。
受入先農家と良好な関係を築くことで、地域に溶け込みやすくなる
インターンシップ中に受入先農家と一緒に働くことで信頼関係を築ければ、その後の本格研修もスムーズに進みます。受入先農家を通じて地域の農家や関係各所とのつながりができ、将来の就農に向けた貴重なコネクション作りにも役立つでしょう。農業の世界では、人脈が非常に大切です。積極的にコミュニケーションを取り、ネットワークを広げておきましょう。
農業インターンシップについて相談できます。遠方の方はオンラインでも!
農業インターンシップの期間・参加条件・体験内容・費用は?気になるポイントを解説
農業インターンシップに参加する際、費用はかかるのか?どのような作業に取り組むのか?具体的な内容が気になるところです。栃木県の農業インターンシップを例に、参加費用や体験できる作業について詳しく確認していきましょう。
期間はどれくらい?
栃木県の農業インターンシップは、5日以上7日以内の期間で、複数回に分けての参加も可能です。スタート日は参加者の希望日に応じて受入先農家と調整します。原則として1日8時間以内、週40時間を超えないよう規定されているので、無理なく体験できます。
参加条件は?
18〜概ね50歳までの人が対象です。本格的に農業を学び、栃木県内での就農を希望している人に限ります。高校生は参加できません。
農業インターンシップではどんなことをする?
農作業は、季節や作物によって変わりますが、例として以下のようなものが挙げられます。
作目 | 主な作業内容の例 |
水稲 | 育苗・田植え補助・水管理・畦畔の草刈り・稲刈り |
野菜 | 施肥・耕起・ベット上げ・ハウスの建設・は種・育苗・マルチ張り・定植・トンネル張り・薬剤散布・箱づくり・収穫・包装・出荷 |
果樹 | 剪定・授粉・摘果・下草刈り・袋がけ・収穫・箱詰め・(観光農園の)接客 |
花き | 土入れ・は種・移植・挿し木・芽接ぎ・芽かき・ハウス管理・温室内薬剤散布・出荷 |
酪農 | 搾乳・飼料調製・給餌・哺乳・分娩立ち会い・除糞(じょふん) |
肉用牛 | 給餌・体重測定・出荷・子牛の導入・除糞・ブラッシング |
ビニールハウスの組立・解体や、台風・水害への対策、観光農園では接客業務など、農作業以外の体験もできる場合があります。また、季節や期間によっては限られた作業しかできないため、その時期以外の作業については積極的に質問してみましょう。
参加費用はかかる?
栃木県の農業インターンシップでは、体験料と損害保険料は無料です。ただし、交通費や宿泊費、食費は自己負担となります。
農業インターンシップへの参加方法
栃木県内で農業インターンシップに参加する場合は、(公財)栃木県農業振興公社や各地域の農業振興事務所で担当者と面談し、体験地域や作目を決定します。
(1)就農相談
事前に、(公財)栃木県農業振興公社または栃木県内の農業振興事務所で、就農相談を受けましょう。
(2)規定の必要書類を提出
就農相談後、参加申込書・誓約書などの必要書類を(公財)栃木県農業振興公社に提出します。
(3)受入先農家の選定
参加申込書受理後、受入先農家が選定されます。調整に時間がかかる場合があるので、申込みは希望日の2週間以上前までに行いましょう。
(4)事前打ち合わせで服装・持ち物を確認
受入先農家から指定された服装や長靴などの持ち物について、事前打ち合わせの際に確認して準備します。
※体験に際して傷害保険は(公財)栃木県農業振興公社が手続き(氏名や生年月日を保険会社へ申請)を行います。
(5)農業インターンシップの実施
受入先農家で7日間程度の短期体験を実施します。
(6)終了後、体験報告書を提出
農業インターンシップ終了後、10日以内に体験報告書を(公財)栃木県農業振興公社に提出します。
農業インターンシップへの参加をベテラン相談員がサポート
農業インターンシップ参加前や参加中に確認しておきたいことは?
農業インターンシップ中は、実際の農作業を通して、作業内容や自分の適性を見極めることが重要です。農家と同じ現場で働くことになるため、事前に次の4つのポイントを確認しておきましょう。
体調面での注意
農作業には、ある程度の体力が求められます。夏は暑い環境、冬は寒さの中で作業することが多く、早朝からの作業もあります。参加前には体調を整えておきましょう。
服装・持ち物について
服装は動きやすく、汚れてもいいものを選びましょう。夏でも虫や日焼け対策のため、長袖・長ズボンがおすすめです。速乾性があり、涼しい素材が便利です。冬はしっかりと防寒対策をしてください。
持ち物としては、タオル、手袋、長靴、帽子、ドリンクボトルが基本です。季節に応じて日焼け止めや虫よけスプレーもあると安心です。何が必要か、事前に受入先農家に確認しておきましょう。
期待と現実との違いに向き合う
農業は簡単な仕事ではありません。作物の管理や土づくり、収穫といった体力を使う作業だけでなく、天候や環境によって毎日の作業内容が変わるため、柔軟な対応力も求められます。農業インターンシップ中は、受入先農家の指示に従って行動する必要があり、自由に動けないと感じることもあるでしょう。その点はあらかじめ理解しておくことが大切です。
参加中に懸念点を解消しておこう
農業インターンシップ中には、受入先農家やスタッフとしっかりコミュニケーションを取り、疑問や不安を解消しておくことが大切です。
新規就農研修を検討している場合は、農地確保の支援が受けられるか、また新規就農者向けのサポート体制が整っているかを、インターンシップ受入先農家に相談してみるとよいでしょう。
農業インターンシップについて気軽に相談してください。オンラインでもOK!
農業インターンシップ受入先農家インタビュー|上野孝明さん
栃木県農業大学校卒業後、20歳で親元就農し、35歳で経営移譲され社長に就任した上野孝明さん。農家としては5代目、いちご農家としては3代目にあたります。家族4人、パート従業員2名、外国人技能実習生(冬は4名、夏は2名)で経営し、パイプハウス20棟、連棟ハウス1棟、栽培面積80aでいちご「とちあいか」を栽培しています。あわせて水稲も7haで栽培。2022年より栃木県農業士、とちぎ農業マイスターも務めています。
新規就農研修予定者を農業インターンとして受け入れる
2024年2月、上野さんは真岡市でのいちごの新規就農者研修を目前に控えた高柳佑香さんを農業インターンとして受け入れました。4月から始まる研修に備えて、研修予定者が事前に農業インターンとして短期研修を行うことで、受入先農家と研修予定者の相性を確認し、研修の具体的なイメージをつかむことができます。
1月に顔合わせを行い、2月下旬には1週間のインターンシップが始まりました。高柳さんは従業員や外国人技能実習生と共に、いちごの収穫やパック詰めを中心に学びました。
作業は朝8時から午後4時または5時くらいまででした。収穫作業は10時から11時には終わるのですが、パック詰めの時間がその日によってまちまちなので、毎日定時上がりというわけにはいきません。
短期間の研修のため、夏の作業や育苗など、いちごの生態などは口頭で伝えました。
高柳さんは、その場で疑問に思ったことは質問してくれて、メモをとりながら熱心に聞いていましたね。
インターンシップを経験しながら「農業」を楽しめることが大切
県農業士という立場になったとき、積極的に農業インターンを受け入れ、仲間を増やしていきたいと思うようになった、と上野さん。
いちご農家になるかどうか迷っている、という段階の人でも農業インターンシップにどんどん来てほしいですね。
この仕事が合う合わないはあるので、実際にやってみることでわかることも多いと思います。7日間のインターンシップで向いていないと感じたら、そこで判断してもらって構いません。
作業中、さまざまなトラブルが起こりえます。そんなときでも、解決する道筋を見つけて楽しめることが大切です。
農業インターンシップ経験者インタビュー|高柳佑香さん
真岡市出身の高柳さん。会社員を経て専業主婦をしていました。実家は兼業農家で、農地を活かして何か自分でできないかと思ったのが就農を考えたきっかけでした。
農業の経験がまったくなかったので、農業振興事務所に相談したところ、本格的な研修に入る前に農業インターンシップをすすめられました。
農業インターンシップでは、上野さんはじめ、ご家族の皆さんに本当によくしていただいて、どんな質問にでもていねいに教えてくださり、とても作業しやすい環境でした。
農業インターンシップ開始前には体力に不安があった
高柳さんが、農業インターンシップを始めるときに心がけたのは、体調管理に気をつけることと受入先に迷惑をかけないようにしよう、ということだったそうです。
体力的に自信がなかったのですが、7日間休まないで行こうと心に決めていました。農業インターンシップでは、あらためて農業の厳しさ、大変さを知ることができました。中途半端な気持ちではできない、覚悟をもってやらないといけないと感じました。
農業インターンシップ中、上野さんが「気」が大事と言われたことが心に残っています。いちご作りに対して強い気力をもって取り組むことが大事だということです。
農業インターンシップを経験して、農業の厳しさだけでなく、楽しさや達成感、充実感を得られた、と高柳さん。
せっかく農業インターンシップという制度があるのですから、ぜひ活用してみてください。私自身が参加してよかったと感じているのでおすすめします。インターンシップで、楽しいことを見つけられたらその先に進めます。
まずは、就農相談窓口に相談してみてください。
農業インターンシップを経験し、引き続き1年間の新規就農研修を受けることに
高柳さんは、就農後に家族で農業をやりたいと考えています。農業インターンシップ期間中に、上野さんのように家族で経営している環境は具体的な目標になると感じ、引き続き上野さんのもとで2024年4月から1年間の新規就農研修を受けています。上野さんからは、さまざまなアドバイスをもらったり、ご自身と異なる栽培方法をとっている農家も紹介してもらったりしています。
当初、高柳さんは土耕栽培をやりたいと話していたんですが、「今から就農するなら作業効率のいい高設栽培がいいんじゃないか」とアドバイスをしました。でも、うちは全部土耕栽培だからその研修はできません。そこで、高設(養液)栽培をしているほかの農家にも行って勉強してもらいました。
農家になるということは会社を経営するのと同じ
高柳さんの将来を見据えて、真摯にアドバイスを行う上野さん。農家を志す農業インターンや研修生に伝えたいことを聞いてみました。
農家が100軒あれば100通りの考え方、やり方があります。どの方法を自分が採用するかは、自分の感性で決めることです。いいところだけをつまみながらでも構いません。そんな中で自分の色を出していくっていうのも重要なんですよね。みんなと同じ資材を使って、同じ苗を使って、同じ時期に同じいちごを植えたら、同じいちごしかできませんので。
いちご農家になるということは、経営者になるということとイコールです。害虫がついたり生育障害が出たりしたときに、その都度考え、決断していかなければなりません。規模の大小にかかわらず、経営を成り立たせることを考えられる人が農家に向いていると思います。
INFORMATION
上野孝明さん
パイプハウス20棟、連棟ハウス1棟、栽培面積80aでいちご「とちあいか」、水稲7haを栽培している。家族4人(両親と自分、妻)、パート従業員2名、外国人技能実習生(冬は4名、夏は2名)で営農。
上野さんは、天敵を活用したIPM防除や地域内で生産された堆肥を利用するなど、環境に配慮した美味しいいちごづくりをしています。
雇用就農を希望している人向けの農業インターンシップ
雇用就農を視野に入れ、農業インターンシップに参加したい人には、公益社団法人日本農業法人協会の「農業インターンシップ」制度を活用できます。
栃木県内では、現在4つの農業法人で雇用就農向け農業インターンシップを受け入れています。「農業はじめる.jp」内の農業インターンシップ専用WEBサイトでは、受入先一覧を確認できます。参加申込については下記の専用WEBサイトを確認してください。
農業インターンシップ終了後にその農業法人や農家での雇用就農を考えている場合は、給与や福利厚生、勤務形態などを確認しておきましょう。
#事例紹介
自ら考え、情熱をもって働く「農業人(スペシャリスト)」集団を育てる(株)長谷川農場
雇用就農をめざす農業インターンシップを受け入れています
さいごに
就農に関する情報はインターネットで多く見つかりますが、文字だけではわからないことも少なくありません。実際に農業インターンシップを体験してみると、想像していたよりも楽しいと感じる部分や、思った以上に大変だと感じることがあるかもしれません。
1年間の新規就農研修は一定の覚悟が必要ですが、まずは1週間程度の農業インターンシップに参加することで、やりがいを感じたらその後に長期間の研修を検討することもできますし、自分に合わないと感じたら、その時点で進路を見直すことも可能です。興味があれば、気軽に挑戦してみてください。