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吉村 康治 氏
株式会社あぐりーん 代表取締役。国家資格キャリアコンサルタント。大学卒業後、大手人材派遣会社に就職。地方支店の立ち上げなどを担当する中で、地方都市の農家で求人の需要があることを知る。2009年のリーマンショックでいわゆる派遣切りを見て、農業が受け皿になるのではないかと考え、同年に農業分野に特化した人材事業会社を設立。農業求人サイト「農家のおしごとナビ」の企画・運営をはじめ、就農につながる「本気の」農業体験や、農業に関する各種イベントも主催する。また、農業法人の採用戦略立案や会社説明会等の運営サポートも行っている。
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農業法人で働く魅力。さまざまな職種で活躍できるチャンスあり
日本では農業従事者の高齢化が進み、平均従事年齢は68歳を超え、60歳以上の農業従事者が8割を占めています。農業人口も2000年から半減し、現在は約116万となっています。
一方で、高齢による離農者の農地を引き継ぎ、農業を支えようとする意欲的な若手生産者も増えています。「自分たちが農業を牽引(けんいん)していく」という強い意志を持つ若者にとっては、これからが大きなチャンスです。近年では規模を拡大して法人化する農家や他業種から参入する企業も増加しており、中には年商数億円以上を達成している事例もあります。
規模の拡大に伴い、スマート農業の導入や海外展開、生産効率の向上などに取り組む農業法人も増えています。今後の農業には多くの可能性があり、農業法人での就農は、農産物の生産だけでなく、さまざまな職種で活躍できるチャンスが広がっています。
雇用就農で農業を目指す人ってどれくらいいる?
令和5年の新規就農者調査では、全国で9,300人が新規雇用就農者として報告され、栃木県では116人が農業法人等に就職しています。農業法人の拡大や整った雇用環境が、安定を求める就農希望者にとって魅力的な選択肢となっていることが背景にあります。
農業法人には、どんな人材が求められている?
従来は家族経営の農家が主でしたが、近年では法人化し、組織を大きくする経営体が増加傾向にあります。それに伴い、さまざまな職種に対するニーズが高まっています。農家自ら販売・加工するようになればその専属スタッフ、海外に進出するなら輸出入や海外事情に詳しいスタッフが必要になります。組織拡大により社長が現場から離れることが多くなれば農場の管理者も求められます。
実際に農家から求められている人材は、農業生産に携わる人はもちろん、生産・出荷体制のシステム化のためにIT技術者や工学系の知識を持つ人、ほかの農地の作業請負をしている法人では機械オペレーターや専任者、ECサイトに関わる人、事務職など多岐にわたっています。他業種から就業する場合でも、活躍の場がどんどん広がっているのです。
農業法人で働くメリットとは?
社会保険に加入でき、安心して働ける
農業法人で働く大きなメリットは、社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険)が完備されていることです。独立就農の場合、国民健康保険や国民年金に自ら加入することになりますが、農業法人で働くのであれば、一般企業と同じように、社会保険に加入できるので、安心して働くことができます。
安定した収入が得られる
独立就農に比べて安定した収入を得やすい点も雇用就農のメリットです。独立就農では天候や市場価格等に収益が左右され、経営リスクも大きいですが、農業法人では給与制のため経済的な安定があり、福利厚生も整っています。そのため、将来的なキャリアプランを描きやすいのが魅力です。
初期費用がかからない
独立就農を目指すには、農地の購入や借入れ、施設、種苗、肥料、農業機械などの経費分の資金と、農作物が収穫できて収入が得られるようになるまでの生活費を準備しなくてはなりません。作物や面積によってその費用は変わってきますが、平均で755万円となっています(一般社団法人全国農業会議所・全国新規就農相談センター『新規就農者の就農実態に関する調査結果-令和3年度-』より)。
雇用就農の場合は、一般の会社への転職と同じですから自己資金は1回目の給与をもらうまでの生活費さえあれば就業可能です。
働きながら技術習得やスキルアップできる
農業法人によっては、農作業に必要な大型特殊自動車免許などの取得サポートをしているところもあります。求人票に明記していない場合もありますので、面接でどのようなスキルアップができるかを確認するといいでしょう。
雇用就農に向いているのはこんな人!
専門性を追求したいなら就職・転職向き
雇用就農は、野菜や花を育てたり、畜産では動物の世話をしたりと、「育てること」や「世話をすること」に重きを置きたい人に向いています。また、農業法人の職種が多様化しているため、これまで培ってきたIT技術を活かしたい場合や、マネジメント経験、事務経験、海外での経験など、これまでの経験を活かして農業に携わりたいと考えている人にもおすすめです。
農業は体力仕事であり、夏の暑さや冬の寒さを乗り越える必要があります。また、自然や生き物を相手にするため、時間通りに働くことが難しい場合もあるでしょう。チームワークも重要で、共同作業が苦手な人には不向きな一面もあります。コツコツとした作業を繰り返す忍耐力も求められるため、根気強さも必要だと言えます。
これらの点を理解し、受け入れることができるかが、農業に向いているかどうかの一つの判断材料になるかもしれません。
独立のために雇用就農する道も
一方で、独立して農業を始めるということは、すなわち経営者になることを意味します。長期的な視野で自らの事業の明確なビジョンと目標を設定し、それに向かって着実に取り組むことが求められます。理想を描きつつ、利益をしっかり追求できるバランス感覚を持った人が適しています。また、組織が成長した際には、リーダーシップを発揮することも重要です。独立就農を前提とした採用を行っている農業法人等では農業に関する知識や技術だけでなく、経営に関することも働きながら学べることが多いです。
農業法人にも二通りあって、従業員にはできるだけ長くいて会社の幹部に育ってほしいというところと、逆に終身雇用が難しく、数年経ったら独立就農を目指してほしいと考えているところがあります。
ですから、就職先は自分の希望に合ったところを探すこともポイントです。
雇用就農か独立就農か、まだ決まっていないのであれば、農業法人や市町村、JAグループが集まり、農業に関心のある人々と直接相談できる就農相談会に参加してみることで、新たな道が見えてくるかもしれません。
また、農業に興味はあるけれど、雇用就農か独立就農か、どちらが自分に向いているのか、まだわからない…そんなときは、まずは農業体験会に参加してみるのも手です。
判断に迷ったら「就農タイプ診断」も参考にしてみてください。
農業法人、ココをチェック!
求人票に記載されている内容では、わからないこともたくさんあります。事前の問い合わせや面接の際に、いくつかのチェックポイントを確認してみてください。
会社の理念やミッション
理念やミッション、あるいはビジョン(目標)が定められているのかは大きなチェックポイントになります。企業理念やミッションを明確に掲げているのは全法人のうち45%程度といわれています。また、掲げていても従業員に浸透できていないケースも多いです。もちろん、農業法人の中には、ビジョンや理念を明確にし、従業員にしっかりと浸透させている企業もあります。
経営は山登りにたとえられます。なんのためにその山に登るのか、どれくらいの行程なのか、目的や目標がないとしんどいだけです。みんなで同じ目標に向かって進んでいけるというのは、大きな励みになります。
給与・福利厚生
他業種から農業に転職する場合、給与が低く感じられることがあるかもしれません。しかし、たとえ農作業の経験がなくても、他業界で経験してきたこと(例えばマネジメントや経理、広報などのスキル)を活かせる部分をアピールし、給与交渉をすることが大切です。
また、農繁期(最も忙しい時期)にどれくらいの労働時間が必要で、どのような働き方になるのかを事前に確認しておくことも重要です。この時期には、休みが取りにくかったり、1日の労働時間が長くなったりすることがあります。
就業規則・労働条件
従業員が10人未満の法人では、就業規則の作成が義務付けられていないため、雇用主から詳細な規則が提示されないこともあります。後々のトラブルを防ぐためにも、労働条件が明確に記載された労働条件通知書を必ず受け取るようにしましょう。
作物や畜産物の種類
野菜や果樹、水稲、花き、畜産などさまざまな農家があります。イメージだけで選ぶのではなく、実際の仕事内容や働いている人がどのような点にやりがいを感じているのかなどを知ったうえで、自分が何をやりたいのか、何が合うのかを見極めてください。
同じ野菜農家の仕事でも、多品種少量生産の農家と少品種大量生産の農家では仕事内容も変わってきます。
有機栽培、減農薬野菜を作っているといった特色をもつところもあります。それぞれの農家の思いを聞き、自分の理想に近いところを選びましょう。
業務内容とスキル
求人票には「農作業全般」と書かれていることもあり、今、その農家でどんなポジションの人が必要なのか、何を期待されているのかがわかりにくいことも多いです。
前述したように、求人ごとに求める人材像は異なるはずですので、どんな役割を担うのか、どんなスキルが必要なのかを確認し、ミスマッチにならないようにしましょう。自分が理想とする働き方に合うかどうかを軸に考えるのがポイントです。
未経験でも受け入れられる体制があるか
求人票には、99%が「未経験者歓迎」と書かれています。ただ、「未経験者歓迎」と「未経験でも働きやすい」は別ものです。「最初の3カ月はこういう仕事から」「マニュアルを用意しています」「1日ごとに振り返りの時間を設けて指導します」など、具体的に示してくれているところだと安心です。
成長の機会とキャリアパス
入社後、どれだけ自分に仕事を任せてもらえるのか、やったことを評価してもらえるのかといったことも働くうえでの大切な要素になります。研修体制や必要な資格サポートなどが明記されているところもあるのでチェックしてみてください。未経験で入った人が2~3年後に何をしているのか、というのも参考になります。
経営者やスタッフの人柄や雰囲気
最も気になるのは職場の人間関係でしょう。経営者がどんな考えをもっているのかというのは働きやすさに関わってきますので、そこを面接で聞くといいでしょう。
その他、SNSでの発信内容から普段の様子がわかることもありますし、可能なら数日だけでも作業体験させてもらうと、日頃どんなふうにコミュニケーションをとっているのかが見えてくるでしょう。
自分がどんな組織でどんな働き方をしたいのか、仕事そのものに何を求めているのか、求職活動に入る前に明確にしておきましょう。そこがはっきりしていれば、希望に合ったところを探せばいいのです。今までのキャリアの棚卸をし、自己分析を行い、どんなときにやりがいを感じてきたのか、何を大切に生きてきたのかをあらためて考えてみることをおすすめします。
選択肢はたくさんあります。自分がやりたいことを実現できるところを選びましょう。
雇用先の形態による違いはある?
雇用での就農先は、以下の3通りです。
会社法人
会社法人には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社などがあり、一般的な企業と同様に利益を追求する組織形態です。社長を中心に従業員が働くため、意思決定がトップダウンで行われることが多く、物事が迅速に進むのが特徴です。また、技術革新が起こりやすく、成長しやすいという利点もあります。昇給を目指すなら、こうした会社法人で働くことが一つの選択肢となるでしょう。
農事組合法人
農家同士が協力して農業を行う組織で、機械の共同購入などを通じて経費削減や効率化を図ります。すべての判断は組合員全員で話し合って決めるため、決定に時間がかかることもあります。この形態は、地域に根ざした農業を実践し、地域とのつながりを大切にしたい人に適しています。
個人経営の事業者
個人事業として営む農家には、家族で農業を続けている伝統的な農家や、将来的に法人化を計画している農家など、さまざまな形態があります。
代々家族で営農している場合、長年の経験と地域に根ざした技術を持ちつつ、伝統や家族の価値観を大切にしています。
一方、将来的に法人化を目指す農家は、経営規模や売上金額などはさまざまですが、規模拡大に向けて、経営者と一緒に経営発展に取り組んでいけるのも魅力です。
雇用就農についての相談はワンストップ相談窓口へ。遠方の方はオンラインでも!
就農後のキャリアの選択肢は?
農業法人に就職したあとは、組織内で昇進しキャリアを積む道もあれば、技術や経験を活かして独立就農を目指す選択肢も考えられます。
組織の中で重要ポストに
会社法人で重要なポジションに就くということは、中間管理職としての役割を果たすことを意味します。会社の方針を理解し、それを実現するための行動が求められます。自分の責任範囲をしっかり把握し、効果的に動くことが重要です。また、農場長や営業部長は、社長やほかの従業員と協力し、強固な組織を築くために、共通の目標や目的に向かって一緒に進むことが必要です。会社の成長がなければ、自分の給与が上がることも難しいため、メンバー同士で協力し、円滑なコミュニケーションを取ることが不可欠です。
現場のプロフェッショナルとして活躍する
現場のプロフェッショナルは企業にとって不可欠な存在であり、そのスキルと経験が組織の成長に大きく貢献します。さらに、昇進や昇給を目指すためには、売り上げの向上や組織の拡大について、経営者と共に戦略を考え、取り組んでいくことが求められます。
独立就農を目指す
独立して農業を始める際には、栽培技術に加えて経営の知識も必要です。販路の確保や初期費用の調達方法、農地の借り方など、さまざまな課題に取り組むことが求められます。また、地域との信頼関係も重要な要素です。もし雇用就農から独立を考える場合は、勤務先の経営者に早めに独立の意思を伝えておくことで、協力を得やすくなる可能性があります。
一般企業の転職であれば1~2カ月前に辞意を表明すればよいのですが、独立就農を希望しているなら早い段階で将来的に独立を考えていることを伝え、信頼関係を築いておくといいでしょう。
お互いの認識にズレが生じないよう、意志を明確に伝えておきましょう。また、求人票に「将来的に独立を目指す人」を募集している法人もあるため、そのような企業を選ぶのもひとつの選択肢です。
農業法人への就職・転職についての質問は、ワンストップ相談窓口へ
若い世代も活躍中!栃木県内の農業法人を紹介
栃木県内には、一緒に組織を盛り上げる人を募集している農業法人がいくつもあり、tochinoのサイトでも紹介しています。
株式会社長谷川農場|足利市
和牛とホルスタインの掛け合わせた交雑種に、地元のワイナリーがワインを製造する際に発生する副産物であるブドウの果皮と種(マール)を発酵させて製造した餌をホルスタインと和牛の交雑種へ給与して育てたブランド「マール牛」と、アスパラガス、玉ねぎ、米、麦などを生産しています。
スタッフの平均年齢は32歳。若い世代が多く活躍し、能力次第で役員も目指せる環境が整っています。社会保険や年金、雇用・労災保険、勤続年数手当、家族手当、通勤手当のほか、農家への視察研修なども実施。より一層の経営力強化を目指し、正社員を増員していく予定です。
#事例紹介
自ら考え、情熱をもって働く「農業人(スペシャリスト)」集団を育てる(株)長谷川農場
株式会社菅谷農産|真岡市
約100haの経営規模で、ねぎ、にんじん、キャベツ、米、にらを栽培。40代の代表が20〜30代を中心とした30名以上のスタッフを率いています。令和2年に法人化してから農地を大きく規模拡大した会社です。定時での就業を原則としており、夏季・冬季休暇の取得や、業績に応じて昇給や賞与も支給されます。未経験者のチャレンジや研修生も募集中です。
#事例紹介
農業未経験から農場長に就任!新進気鋭の農業法人でさらなるキャリアアップを目指す
株式会社山口果樹園|宇都宮市
梨を中心に、シャインマスカット、柿、キウイフルーツ、レモン、フィンガーライム、いちじくなどを栽培しています。長期的な雇用就農を希望する方だけでなく、将来独立を目指す方も積極的に支援しており、これまで38年間、多くの研修生を受け入れてきました。
#事例紹介
家業のなし農家を継ぐ前に農業法人で5年間修行!師匠から学ぶことのすべてが成長の糧になる
希望に合った栃木県の農業法人を紹介します!
さいごに
農業は大きな転機を迎え、未経験の人にも広く門戸を開いています。Uターン、Iターンを考えている人も、異業種での経験を活かしながら就農できるチャンスです。やればやるだけ結果につながるのが農業のいいところ。どこの農業法人で働くかによってその後のキャリアは変わる可能性もありますので、農業で何を目指したいのかビジョンをはっきりさせ、実現に向けてチャレンジしてください。
農家の方たちと話していていつも思うのは、皆さん笑顔が素敵だということ。この仕事を心の底からやりたくて意欲的に取り組んでいるんだろうなと感じます。
これから農業を目指す人たちにも、今もっている「やりたい」気持ちを大切にして、夢を実現してほしいと思います。
スマート農業や自社での加工、海外展開など、農業の可能性は無限大に広がります。これからの農業をよりよいものにしていけるよう、応援しています。