コラム

新規就農の落とし穴を回避!事例から学ぶ失敗の原因と効果的な対策

夢をもって新規就農を目指していたのに、途中で計画が頓挫してしまったり、就農までこぎつけたものの経営がうまくいかなかったり、ということは残念ながら生じてしまうことがあります。就農を成功させるために、新規就農時に起こりやすい失敗例とその対策を押さえておきましょう。



新規就農を成功させるために知っておきたいこと


新規就農に挑戦するときは、多くの夢と希望に満ちていることでしょう。その一方で、数々の困難に遭遇したり失敗したりということもあります。農業でつまずきやすいポイントは、初期の計画不足、技術や知識の不足、そして、資金調達の難しさなど。成功への道を確実にするために、しっかりとした準備と計画が必要です。新規就農者が直面しやすい失敗例を具体的に紹介し、それらを回避するための対策を解説します。


失敗事例(1)自己資金や設備投資、お金に関する問題


Aさんの例|融資と補助事業が受けられず資金が足りなくなった

Aさんは、ハウス建設用の手持ち資金が少なく、青年等就農資金の融資と補助事業を当てにしていた。ところが、借入金があったために融資が受けられなくなってしまった。


■失敗回避のポイント

青年等就農資金」は、新規就農者向けの無利子資金制度です。就農資金を受けるために「青年等就農計画」を作成する際には、手持ち資金の確認書類などを提出し、住宅ローンやカードローンなど借入金に該当するものがないか、家族のものも含め、もれがないかを確認してください。見落としがちな奨学金や学資ローンも借入金に含まれます。金融機関により自己資金の状況や借入金の性質、返済の見込みなどを総合的に審査され、融資が断られるケースがあります。また、金融機関から融資を受けることが要件となっている補助事業もあるので、注意しましょう。

なお、Aさんは、中古ハウスを購入・修繕し、なるべくお金をかけない方法で就農にこぎつけることができました。
 


Bさんの例|自己資金が不足して独立を断念

Bさんは就農に向け預貯金をしていた。しかし、新規で栽培用ハウスを建設するには足りず、新設ハウスでの独立就農を断念した。


■失敗回避のポイント
近年は物価高騰により、初期費用が自分で想定していたよりも高額となる可能性があります。農業を仕事にしようと考えた時点で、ハウスなどの施設を建てる費用をはじめ、必要な金額を見積もりをとるなどしてあらかじめ調べておく必要があります。

事前に必要な金額をつかんで、適切な資金計画(自己資金・融資等)や就農計画を立てましょう。

Bさんは雇用就農に切り替え、貯蓄を増やしつつ地元とのコネクションをつくることに。紹介してもらった中古施設を購入して初期費用を抑えながら最終的に独立自営就農することができました。


お金に関するチェックポイント

新規就農にかかる費用などを説明すると、思っていたより初期投資が高いと驚く人が少なくありません。


①収支をシミュレーションする
いちごを20a栽培する場合、初期投資額の目安は約3,900万円。経営収支を試算し、何年で返済可能か、返済計画を確認してみましょう。

また、経営開始後、農作物を販売して収入を得るまでには時間がかかります。例えば、いちごの場合、4月に経営開始して、収入を得られるのは11月ぐらいからです。収入を得るまでに必要な生活資金に無理がないように計画を立てておきましょう。


#「いちご」で農業を始めるにはどのくらい の資金が必要?


②融資を受ける際の注意点
施設や機械の購入のため、青年等就農資金を受けるためには認定新規就農者の認定などが必要条件になります。ただし、認定を受けても融資のための審査が通るとは限りません。特にAさんのように既存の借入金が原因で審査が難航するケースがあるため、注意が必要です。

また、融資の申請から実行までは約3カ月かかります。認定新規就農者の認定を受けるために必要な青年等就農計画を立てる際には、金融機関とも事前に相談し、必要な時期に資金調達ができるよう準備を進めましょう。


お金に関する不安について、経験豊富な相談員がお答えします


失敗事例(2)栽培技術・知識に関する問題


Cさんの例|新規就農研修に参加せず、独自のやり方で就農して行き詰まった

研修制度を利用せず、栽培に関する知識が乏しいまま新規就農に踏み切ったCさん。販路も独自で開拓したいという思いから市場出荷を選択しなかったため、売上が予定していたほど上がらず、運転資金が足りなくなってしまった。


■失敗回避のポイント
目指す農業の将来像を描くことは大切ですが、Cさんのように技術や知識を身につけぬままに就農することは危険です。県や市などの自治体や地域の農業者に相談するとともに、研修を受けるなどして、栽培技術や農業経営について学び、適切な作付け・販売計画を立てたうえで就農を目指しましょう。

 

なお、栃木県では、下記のとおりさまざまな研修制度を設けています。

 

栃木県農業大学校
農業に関する実践的な教育・研修を行っています。
社会人向けのとちぎ農業未来塾も開講しています。

 

地域の研修制度
市町やJAなどが運営する研修制度もあります。栽培技術だけでなく、農業経営についてもカリキュラムに組まれているものが多いです。

 

雇用就農
農業法人や個人農家のもとで働いて、知識や技術を身につけたり、自己資金を貯めてから独立するという方法もあります。


Dさんの例|栽培技術が低く、品質が悪い

Dさんは研修などを受けないまま独学で就農。就農してから販売先を探しはじめたが、自分では見つけることができなかった。また栽培技術が十分ではなかったため、なんとか販売にこぎつけても野菜の質が低くリピーターもつかず、経営計画を達成するにはほど遠い結果となってしまった。


失敗回避のポイント
Dさんの失敗は十分な栽培技術が身についておらず、販売先のめどが立たないまま就農に踏み切ってしまったことによります。

研修を受け、栽培技術をしっかり身につけ、同時に販路開拓も含めた農業経営についても学んでおくべきでした。


栽培技術・知識のチェックポイント

研修を受け、農業経営の現場を経験して実践的な技術やノウハウを学ぶことは、遠回りに見えても結果的に失敗回避への近道といえます。
栽培知識を体系的に学び、身につけることも必要です。

また、栽培だけでなく農業経営に必要な経営知識も必要不可欠です。就農後、思ったよりも売り上げが少ない、経費がかかる、収入が少ない、労働力が足りないなどといったことがないように、不安に思うことは研修期間中に研修先や各機関に相談しておきましょう。


栽培知識

  • 植物生理
  • 土壌
  • 品目の栽培体系
  • 農薬・肥料
  • 栽培設備
  • 農業機械
  • 環境制御など

 

実践技術

  • 栽培の定石 
  • プロ農家の作業スピード、 生産性を上げる作業の工夫(農具の置き方、作業準備など) 
  • トラブル対応(病害虫、台風、機械故障など)
  •  機械の操作技術 
  • パッキング技術 
  • 農作業の実践経験で得るコツ

栽培技術・知識に関する疑問・質問について、経験豊富な相談員がお答えします


失敗事例(3)地域との関係の問題


Eさんの例|周囲との信頼関係が築けず、予定していた農地が借りられなくなった

就農予定地域の生産者のもとで研修を行っていたEさん。研修中の実績やふるまいなどから研修先や地域での評価が得られず、地主から借りる予定だった農地を断られた。その後もなかなか農地が見つからず、経営をスタートするまでのスケジュールがタイトになってしまった。


■失敗回避のポイント
研修先の地域で就農する計画を立てているなら特に、研修先農家や地域の人との円満な関係を築いておくことが重要です。地域によっては、共同で農業機械を購入して使ったり、誰かが病気になるとそのサポートを相互に行ったりしているところもあります。

 

ただ、人間同士ですからどうしても相性の良し悪しというのは生まれてしまいます。それを見極めるために、本格的な研修に入る前に数日間の体験をさせてもらうといいでしょう。また、7日間程度の事前体験ができる農業インターン制度もありますから、それを利用するのも手です。関係がこじれてからでは修復が難しくなるので、困ったことがあれば早めに農業振興事務所や研修機関に相談してください。


地域との関係のチェックポイント

就農を成功させるには、地域の人たちと良好な関係を築く姿勢が何よりも大切です。


農業経営には地域の農家や地主、師匠・先輩や農家仲間、自治体・JAといった支援機関、メーカーや販売店など、多くの地域事業者や支援機関が関わっています。農業を行ううえではその土地に住む地元の人の協力が何よりも役に立つので、良好な関係性を就農前からしっかりと作っておくようにしましょう。


就農前の不安について、ベテラン相談員がサポート


失敗事例(4)農地の問題


Fさんの例|農地が決まるまでに時間がかかり、スタートが遅れた

Fさんは自宅周辺で農地を探していたが、当時、農業振興公社で貸し付けられる農地がなかった。Fさんはその地域での就農を強く希望し、ほかの地域を検討しなかったため、農地確保が遅くなり、営農開始が遅れてしまった。


■失敗回避のポイント
農地はできるだけ自宅に近い場所で借りたほうがいいとされています。長時間の通勤は身体に負担がかかりますし、急な悪天候に見舞われたときも、自宅と農地が近ければすぐに対応しに行けます。とはいっても、現在の住居の近くという条件をつけてしまうと希望する面積や品目に適した農地が見つけられないこともあるでしょう。条件に合った農地を見つけるには時間がかかることを念頭に、ゆとりをもって早めに動くことが大切です。農地は研修中から探しはじめましょう。

 

どうしても難しいときは引っ越しも視野に入れ、宅地込みで貸してくれる土地や、空き家バンクなどで住宅も併せて探すなどの対応も考え、柔軟な農地探しをしましょう。

 

ただし、農業は1か所で長く行うものですから、どうしても地域を絞りたい場合は、地元の農家などで働きながらじっくり腰を据えて探すのも一手です。


Gさんの例|希望品目に合わない農地を購入してしまい、品目転換を余儀なくされた

Gさんは、自治体が公開している農地バンクで農地を探し購入した。しかしその農地では日照、水の利用や排水条件などの理由から希望していた品目は作れず、最終的にその場所で農業を続けることができなくなってしまった。


■失敗回避のポイント
農地を探すときには、希望する品目に合った土壌、気候であるかなども必ず確認しましょう。

栃木県では、いちご栽培が盛んですが、その大きな理由は冬の日照時間が長いこと。山や建造物の関係で冬の日照時間が短くなってしまう場所ではその利点が望めません。

 

また農地バンクを利用したFさんは現地の確認が甘かったといえます。その場所が使用されていない理由を地元の人や自治体、JAの担当者などに聞いていたなら、日当たりが悪い、井戸水が出ないなどの答えが聞けたかもしれません。
農地の借入・購入前には、以下のチェックポイントを参考に、現地でしっかり確認しましょう。


農地確保のチェックポイント

就農後のトラブルを未然に防ぐために、下記のポイントをチェックしておきましょう。
購入の場合はもちろん、賃貸の場合でも、条件をよく確認してから契約することが重要です。


  • 希望する作物に合った気象条件(日当たり、降水量、降雪量、風の強さなど)ですか?
  • 日照は確保できますか?
  • 水源が近くにありますか?
  • 排水性に問題はありませんか?大雨の後、何日もほ場に入れないようなことはないですか?
  • ハウスを建てる場合、長期の契約は可能ですか?
  • ほ場の近くに住宅を確保できますか?

農地についての相談はワンストップ相談窓口へ。遠方の方はオンラインでも!


失敗事例(5)人間関係・家族の問題


Hさんの例|家族の反対にあって研修をあきらめた

未経験から農業へ転職するため、農家でアルバイトをしていたHさん。アルバイトのままでは農地を借りることが難しいため本格的に研修を受けようとしていたが、家族から反対されてしまった。金銭的な事情もあり、研修参加をあきらめざるを得なかった。


■失敗回避のポイント
Hさんはそれまで家族に独立自営就農したいという自分の気持ちを話してこなかったのでしょう。Hさんには奨学金など複数の借入金があり、収入の安定しない独立就農への挑戦という突然の申し出に家族は賛成することができませんでした。その後、家族と十分に話し合い、経済的な問題を解決したあとで再度、研修にチャレンジすることになりました。

 

家族には転職を決めたときではなく、転職を考え始めたときから相談するべきです。自分の思いやビジョンを伝え、理解を得ておく必要があります。


Iさんの例|親元就農を予定していたが、家族との意思疎通ができていなかった

Iさんは親元就農に向けて準備を進めていた。研修中に国の就農準備資金を受給していたため、農地の所有権移転や経営移譲など、親元就農で交付を受けるための要件を満たす必要があった。当時の経営主はIさんの祖父。農地の所有権移転や経営移譲に納得してもらえず、家族関係も悪化してしまった。


失敗回避のポイント
国の就農準備資金を受給した場合、親元就農であれば就農後5年以内に農業経営を継承することが要件となります。現経営者が経営権を譲ることになるわけですから、家族と事前に話し合い、理解を得ておくことが大切です。


人間関係・家族のチェックポイント

農業経営には家族の理解と協力が必要です。早朝や休日にも作業があるなど、ライフスタイルの変化は農業をしない家族にも影響が出ます。特に移住や引っ越しを伴う場合、家族の生活環境も大きく変化することになります。


話が具体的になってから家族の反対で断念したという残念な例もあります。早い段階から家族に相談し、適宜情報を共有しておきましょう。

 

なぜ農業をしたいのか、パートナーや子どもにも正直に伝え、応援してもらえるよう働きかけましょう。就農相談や現地訪問に同行してもらうのもおすすめです。

 

収入面の不安を解消させるには、具体的で実現可能な経営計画を示し、理解してもらう必要があります。

夫婦で就農する場合や親元就農など、家族が農業に関わる場合、役割分担や責任を明確化しておくことが重要です。そこで、家族間で「家族経営協定(※)」を結ぶことを検討するとよいでしょう。


家族経営協定とは

家族経営協定とは、家族それぞれの役割や責任を文書で明確にすることで、意思疎通の不一致や後々のトラブルを避けるための取り決めのこと。具体的な内容としては、農作業の担当分けや経営に関わる決定権、収入の分配方法などが挙げられる。例えば、誰が主に栽培管理を行うか、販売活動や経理を誰が担当するかを事前に取り決めておくことで、日々の運営がスムーズになる。
さらに、万が一の事態に備えて、病気や怪我などで農作業ができなくなった場合の代替措置も含めると安心。


ベテラン相談員がお話をお聞きします。遠方の方はオンラインでも!


さいごに

紹介した例のなかには事前の入念な確認や準備、周囲からの助言などがあれば防げたものも少なくありません。事態が起きてからでも相談することでリカバリーできたケースもあります。

就農前に不安に思うこと、疑問に感じることがあったら、栃木県農業振興公社内の「ワンストップ相談窓口」に相談してみてください。ベテラン相談員が、就農に関する疑問・質問におこたえします。


迷ったらとりあえず相談

こうかな?どうかな?と
悩む時間はもったいない!
気軽に相談してみよう!

相談してみる
戻る