コラム

後継者のいない農家の事業を譲り受ける「第三者継承」。初期投資を抑えて早期の経営安定も期待できる!

農業従事者の高齢化が進む昨今、後継者がいなく農地や施設が活用されず、耕作放棄地となるケースも多く見受けられるようになりました。その一方で、新しく農業を始めたいと考える人も増加しています。
この記事で紹介する「第三者継承」は、就農希望者と後継者がいない農家の両者がお互いに利益を得られる方法です。
宇都宮市の第三者継承を行う際の流れや受けられるサポート等の例や、栃木県内で第三者継承で就農した先輩たちの事例を詳しく解説します。



第三者継承で事業を受け継ぐ5つのメリット


第三者継承とは、先代農家に後継者がいない、または家族が事業を継ぐ意志がない場合、農家の有形・無形の資産を家族以外の人が引き継いで事業を継続する取り組みのことです。農業経営が新規就農者に引き継がれると、農地だけでなく栽培の知識なども受け継がれることから、継承者が継続的に営農できるというメリットがあります。


第三者継承は、農業経営者が変わるだけでなく、農地や農機具などの資産をはじめ、農作物の栽培に必要な技術や知識を引き継ぐ場合もあります。その範囲はさまざまで、先代農家と新しく農業を始める人が相談しあい、細かい部分を決めていきます。


新規就農の障壁に、自己資金不足や農地が見つからないといった問題が挙げられます。第三者継承には、それらを軽減する多くのメリットがあります。


①自己資金が少なくても農業を始められる

先代農家からすでにある土地や農機具、施設を引き継げるため、それらを購入する費用を節約でき、少ない自己資金で農業が始められます。新規就農者向けの支援制度を合わせて活用すれば、農業参入へのハードルが大幅に軽減できるでしょう。


②農地を引き継げる

調査によると、就農するとき「農地の確保」に苦労した人は全体の60%超。そのうち半数を超える54%の人が「土地条件が悪かった」と回答しています。


新規参入者の経営資源の確保に関する 調査結果
一般社団法人全国農業会議所  全国新規就農相談センター -2019(平成31)年3月-

農地の確保への苦労(回答数804)

◼︎非常に苦労した:33.0%
◼︎苦労した: 30.6%
◼︎あまり苦労しなかった: 22.6% 
◼︎苦労しなかった: 13.8%

就農するとき、どのようなことに苦労したかについて(複数回答あり・有効回答数511)

◼︎土地条件が悪かった:53.4%
(傾斜地や不整形地、接道がない、水利が悪い、多礫・多石等で土壌状態が悪い等)
◼︎面積が思うように集まらなかった:41.9%
◼︎一カ所にまとまらず分散していた:40.1%
◼︎住居から遠い場所だった:26.4%
◼︎希望した地域で農地を見つけることができなかった:24.1%
◼︎農地の賃借料が高かった:8.8%
◼︎農地の価格が高かった:4.1%
◼︎その他:22.9%


整備された農地や農業設備を引き継ぐことは大きなメリットといえます。農地を探す手間が省けるうえに灌漑設備(農地に水を供給するためのもの)や道路などのインフラも整備済みのため、すぐに農業が始められ、就農準備期間を短縮できます。


③1年目から安定的な収入を確保しやすい

先代農家から経営ノウハウを引き継げるため、スムーズに事業を開始できます。すでに確立された販路や取引先を利用できるため、販売先を新たに開拓する手間が省け、就農1年目から安定した収入が期待できます。

また、果樹や畜産をはじめとする出荷までに年単位の時間を要するものでも、1年目から売上が見込めます。一定のブランド力を持つ場合は、その信用から更なる安定収入を得やすいという利点があります。


④栽培に関する知見や人脈など、先代からの財産を活用できる

先代農家が長年培ってきた栽培技術やノウハウを直接学べます。また、近隣農家や地域へ溶け込めるよう、コミュニケーションのサポートを受けられるかもしれません。


⑤早期に経営の安定化が見込める

先代農家から生産技術が学べることにより、就農直後の試行錯誤の期間を短縮でき、早期に適切な技術での農業生産を実現し、比較的早い段階で経営を安定させることができます。


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第三者継承で農業を受け継ぐには、メリットだけでなくデメリットも考慮する

第三者継承では、地域や作物、経営規模などのさまざまな要因で、希望どおりの条件を満たせないなどのデメリットも存在します。


①希望の農業経営形態にすぐ出会えるとは限らない

各地域には地域特有の気候や土壌条件があるため、希望どおりの生産方法や農作物を栽培できない場合があります。

また、大規模な農場を探していても、継承できる農地が小規模なことや、その逆の場合もあります。


②受け継ぐ資産が大きい場合、多額の資金が必要になる場合もある

先代農家の経営状況を見極めることが大切です。問題のある農地や設備を引き継いでも経営はうまくいかないでしょう。先代農家の負債を引き継いでしまう可能性もあります。家族や親族との間で話がついているのかも確認しておきたいところです。

農地や設備の所有権、借地権などに関連する法的問題がある場合は、解決するための法的費用や手続き費用が必要になることも。また、第三者が農地や設備などの資産を無償で受け取る場合贈与税の対象となり、税金がかかります。

贈与税の税率は贈与される財産の価額に応じて異なります。大規模な農地や施設・設備の所有権を取得した場合は評価額が高額になるため、多額の資金が必要となる可能性もあります。そのほか、毎年かかるものとして、固定資産税が挙げられます。

そのため、農業での第三者継承の事例では、農地や施設・設備の賃貸借が多く見受けられます。


第三者継承について、詳しくは栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


マッチングから事業スタートまで。第三者継承の流れを解説

参考:宇都宮市の第三者継承事業フロー

第三者継承へのステップ

ここでは、第三者継承事業を行っている宇都宮市を例に解説します。宇都宮市ではベテラン農家の経営資産を意欲ある次世代につなぐため令和元年度から新規就農者事業を開始。果樹やトマト、にらといった施設栽培でのマッチング実績があります。

(1)離農予定者と継承希望者のマッチング

第三者継承を行う場合、まず、離農予定者と継承を希望する新規就農者の情報を集め、マッチングを行います。

離農予定者の「作目(作物や畜産の種類)」「離農予定時期」「農園所在地」と、継承希望者の「希望する作目」「いつごろまでに就農したいか」「就農したい場所」などを担当者がヒアリング。双方の条件が合致したら、事前研修に進みます。

 

(2)顔合わせと共同作業

双方の条件がマッチして、顔合わせを行ったあと、共同作業を実施します。約1〜2週間程度、離農予定者と継承希望者が一緒に農園で作業をし、お互いの相性や信頼関係を築けるかどうか確認する期間を設け、ミスマッチを防ぎます。

 

(3)栽培技術の習得

新規就農者のスキルや要望に合わせて、離農予定者から技術指導や経営指導などが受けられる場合もあります。また、離農予定者が高齢などの理由で技術指導ができない場合は、市や農業大学校で実施している新規就農研修で学ぶこともできます。

 

(4)継承への準備

事業継承の準備には、有形資産(農地、農機具、設備など)の移譲といった資産に関する内容が含まれるため、専門家が間に入り手続きを実施します。
第三者承継の場合、農地や農業機械・施設は賃借での契約が一般的ですが、農業機械を無償で譲渡されるケースもあります。

新規就農者は、経営計画の作成や資金借入準備を行います。この準備には、県や市、JAの職員がサポートに入ります。

 

(5)契約書(合意書)作成、(6)事業継承

継承準備が整ったら、契約書(合意書)を作成し、経営者交代(継承)となります。書類の作成も市が支援してくれるので安心です。

 

(7)継承後もサポートが受けられる
継承後も、県や市からは補助金など事業に役立つ案内が行われ、JAや地域の農業振興事務所などから必要に応じて技術的なフォローも受けられます。


第三者継承で農業経営を開始する方法は?

農園運営の方法としては下記のような例が挙げられます。

  • 1〜2年間、離農予定者と継承者が伴走しながらノウハウを覚えて事業継承する
  • 事業継承後、1〜2年のうちは先代農家が伴走する形で技術や経営について学びながら営農する
  • 先代農家が高齢などの理由で技術継承が難しい場合は、研修制度などを活用して技術習得をする

事業継承や経営のスタート時期は、継承者側のスキルなどにより異なります。

 


第三者継承についての相談は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


第三者継承で就農した先輩農家の事例を紹介

栃木県内で、第三者継承で新しく農業を始めた3人の先輩農家の事例を紹介します。


果樹農家に絞り第三者継承の候補先を探して、独立自営就農を実現(那須烏山市)


宇都宮市で働きながら、果樹栽培への就農の道を模索していた中村麻衣さん。果樹は実がなるまでに時間がかかるので、初めから第三者継承を視野に入れて農業振興事務所に相談。相談から2週間後に引退する農家があると連絡を受け、第三者継承の契約へと話が進みました。

農地の賃貸契約や栽培指導の契約はJAがマッチング。賃貸後も先代農家から1年間の指導を受け、独立自営就農を果たしました。

継承した農地では、栽培と観光農園を営み、就農初年度に750万円の売上を達成。なし、りんご、もも、ブルーベリー栽培で、今後は1,400万円の売上を目標に、お客様に喜んでもらえる農園作りを進めています。


空き牛舎の紹介を受け、第三者継承で牧場を賃貸契約。念願の牧場オーナーへ(那須町)


県農業振興事務所の熱心なサポートを受け、那須町で独立就農を果たした相場博之さん。勤務先の個人牧場に出入りしていた家畜商に空き牛舎を紹介されたことをきっかけに、栃木県では18年ぶりとなる酪農の新規参入者となりました。相場さんの参入により地域の受け入れ態勢が整い、その後那須地域では2名が酪農に新規参入したそうです。

 

青年等就農資金から借入れた融資額は、融資限度額の3,700万円。就農1、2年目は子牛を育てる経費で赤字になりましたが、生乳の出荷が始まった3年目には黒字化。今後は、売上7,000万円の現状を維持しながら、新規就農者の研修牧場にしたいと将来の展望を話してくれました。


宇都宮市の「農業経営の第三者継承事業」を活用してトマト農家へ(宇都宮市)

農業大学校の就農準備校とちぎ農業未来塾在学中に、第三者継承先を探し始め、トマト農家とマッチングが成立し、晴れて農業の道へと進んだ人もいます。2022年に、先代農家から1年間の技術研修と全農地60aのうち40aの農地を受け継ぎ、2年目には残りの20aを継承しました。


宇都宮市では、上記以外にも、第三者継承によるアスパラガス、なし、にらでの新規就農実績があります。
継承後も定期的に県や市、JA、市公社の各関係機関が連携し、経営確立までフォローアップを実施。技術的な指導や助言のほか、各種補助金の案内など、経営確立の道のりを親身に寄り添い、伴走してくれます。


第三者継承についての相談は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


第三者継承を実現したい人に向けたサポート


栃木県での第三者継承希望者とのマッチング支援

栃木県では「とちぎ農業経営・就農支援センター(事務局:公益財団法人栃木県農業振興公社)」を設置し、「ワンストップ相談窓口」での就農相談を実施しています。ここでは、「農業を引き継いでもらいたい」という先代農家と、「引き継げる農家さんに出会いたい」という新規就農希望者のマッチングや情報提供を行なっている地域のサポート体制(市町・JA等)を紹介しています。

第三者継承についての相談は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


経営継承に関する国や県の支援

先代農家から経営継承を受けた新規就農者に向けた補助金を用意。経営継承を行った際に作成した計画を実行するにあたり、掛かった経費のうち、100万円を上限に(国と市町村が1/2ずつ負担)補助金が受けられる国の支援事業あります(経営継承・発展等支援事業)。

また、栃木県には、先代農家から継承した施設や農業機械などの修繕に掛かる経費を補助する支援事業があります(経営資源有効活用リフォーム支援事業)。


さいごに

第三者継承で先代農家から事業を受け継ぐことで、果樹栽培や酪農などのように経営が軌道に乗るまでに数年かかるといわれる品目でも、比較的早い段階で収入を確保できる可能性があります。

農地や施設・設備、農業機械などの有形資産のほか、栽培技術や販路、地域とのつながりなどの無形資産を受け継ぐ場合も。

ゼロからのスタートで農業をめざす人は、まずはオンライン相談窓口で相談してみてください。


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