INFORMATION
村上 幸一氏
株式会社ケミストリー代表取締役。経営コンサルタントとして、地域活性化や農業分野を中心に幅広い支援を行う。経営診断のほか、経営継承や第三者承継(M&A)、農業BCP、地域活性化プロジェクトの推進、経営戦略や組織戦略の上位戦略策定と実行などの広い範囲での対応が可能。農林水産省「農業の経営継承に関する手引き」監修。「理論無くして実践無し、実践無くして理論無し」をモットーに活動している。
保有資格
事業承継士、中小企業診断士、上級農業経営アドバイザー、第三者承継士(M&A)
実家の農業の引き継ぎを考えた時に必要な6つのステップを解説
実家の農業を引き継ぐときは、いくつかの段階を踏んで準備を進めることが大切です。ここでは6つのステップに分けて説明します。
ステップ1:情報収集と相談を行う
まずは市町や農業委員会などの公的窓口に相談すると、農地や支援制度など必要な手続きの全体像を整理しやすくなります。
栃木県よろず支援拠点(無料の経営相談所)や商工会議所でも相談可能です。
あわせて「認定農業者制度」や、各自治体で行っている支援制度も確認しておきます。その他、先輩農業者からも情報収集をしましょう。
制度や手続きの中には、後から知っても間に合わないものや、知らないまま進めると税金の負担が生じるケースもあります。あとからあわてないためにも、早めに信頼できる窓口で相談しておくと安心です。
ステップ2:経営・資産状況を把握する
現在の経営状況や資産を棚卸します。売上や借入金の状況がどうなのか、農地・機械・施設がどれくらいあるのか、親の栽培技術や販路などを確認しておきます。
ステップ3:引き継ぎの時期と形を考える
実家の農業を引き継ぐにあたっては、「いつ頃、どのような形で引き継ぐのか」を早い段階で考えておくことが大切です。親元で働き始めてから考えるのではなく、最初に方向性を共有しておくことで、その後の準備がスムーズになります。
経営の形には、個人事業主、法人(株式会社や合同会社)があり、どれがいいかは一概には言えません。引き継ぎ時期も、各家庭での考え方や経営状況によって変わってきます。
ステップ4:地域との関係を築く
親元就農する際には、早い段階で地域の関係者といい関係を築いておきましょう。
困ったときに相談できるように、地域の農業者や関係機関(農業委員会、農協、取引先など)との交流を早い段階から始めておくことが大切です。町内会やお祭り、ごみ拾いなどのイベントには積極的に参加することをおすすめします。
学校卒業後にいったんほかの仕事に就き、就農する場合は地域との関わりのない方も多いので、地域との関わりをもつことが大切です。
特に、農業に重要な水管理は、ローカルでルールが定められていることが多いです。水管理がどうなっているかは、地域の方としっかり共有しておきたいポイントです。
ステップ5:名義・契約関係を整理する
農地をそのまま引き継ぐ場合や、新たに借りる場合など、状況によって必要な手続きは異なりますが、農業委員会への許可申請や名義の変更、税務上の手続き、契約書の作成などが必要になります。 手間はかかりますが、後からトラブルにならないよう、ひとつずつ確認しながら進めていきましょう。
ステップ6:経営の維持と発展を考える
継承といっても、親の経営を土台としながら、新しい取り組みを少しずつ取り入れていくことも考えられます。たとえば、作業の効率化にICTを活用したり、法人経営なら規模拡大や販路開拓を検討したり、個人経営ならこだわりを生かした直接販売に力を入れるといった方向性があります。
経営継承にはどんな形態があるのかを確認!
ここまで紹介した6つのステップを進めるにあたって、まず確認しておきたいのが、経営継承の形態です。
親がすでに法人として経営している場合は、そのまま法人を引き継ぐケースが一般的です。一方、親が個人事業主として農業を営んでいる場合には、個人事業主のまま引き継ぐ方法のほか、法人を設立して引き継ぐ方法など、いくつかの選択肢があります。
なお、法人には「株式会社」や「農事組合法人等」があり、形態によって注意点が異なります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
個人事業主として続ける?それとも法人化する?
個人事業主のまま引き継ぐ場合
手続きは比較的シンプルですが、その分、対応が後回しになったり、本来踏むべき手続きを省いてしまったりするケースも見られます。 親族間の引き継ぎであっても、名義や役割分担、手続きに漏れがないよう、ひとつずつ確認しながら進めることが大切です。
法人を設立して引き継ぐ場合
個人事業主から法人へ移行する場合、特に注意したいのが農地の扱いです。 将来的に親が農業から退くことを見据え、子が法人を設立し、親を従業員や顧問として迎える方法も考えられます。その際、農地は親が所有したまま、法人に有料で貸し付ける形をとることも可能です。
なお、無償で貸し付けた場合、贈与とみなされる可能性があるため注意が必要です。
また、耕種農業に比べて畜産農業は、事業を一気に進めようとすると多額の資金が必要になります。牛などの家畜は棚卸資産(※)として扱われるため、場合によっては税負担が大きくなることもあります。早めに計画を立て、慎重に進めましょう。
株式会社として引き継ぐ場合(株式がある法人)
株式会社として経営を引き継ぐ場合は、株式の管理が重要なポイントになります。 設立時に親戚などの名前を借りて株主としているケースでは、次の世代に引き継ぐ段階で、 将来の継承を見据えておくことが大切です。
(※)棚卸資産とは
販売目的で仕入れた製品などが、販売されないまま社内に滞留し、資産になっている状態です。
簿記会計上、仕入れた製品は販売されるまでのあいだ、資産として計上しなければなりません。
親と別の品目・別経営を選ぶという考え方
親とは別の品目を栽培する場合は、経営を分けたほうが整理しやすいケースが多いといいます。
将来の方向性がはっきりしないまま親元で就農すると、経営面でも気持ちの面でも、親への依存が強くなってしまうことがあります。 親とは別の経営体とすることや、子が早い段階で法人化を検討することは、経営の自立という点でも前向きな選択肢の一つです。
後継者が「まずやっておくべき一歩」
先ほど紹介した6つのステップを踏まえ、ここでは後継者が「最初に取り組みたいこと」を具体的に整理します。
現状を把握する
最初に取り組みたいのは、今の経営状況を把握することです。 すべてが書面で整理されているとは限らず、長年の経験から感覚的に行われていることも少なくありません。 親の頭の中にある経営情報や、農地・農機などの名義や使われ方について、ひとつずつ確認しておきましょう。
親と一緒に経営の流れを確認する
親元で就農したら、経営の流れを親と一緒に見ていく習慣をつくることも大切です。 口座や現金の管理方法などを共有し、日々の経営がどのように回っているのかを把握していきましょう。
親と交流があるキーパーソンと関係を築いておく
承継の場面では、行政手続きや調整を支えてくれる「現場のキーパーソン」の存在が心強いものです。 親がこれまで関わってきた関係先を確認しながら、早いうちから少しずつネットワークを広げておくと、後々役立ちます。 あわせて、補助金や支援制度についても、早めに調べておくと安心です。
余裕ができたら次のステップへ
親と一緒に農業を営んでいるうちに、経営カレンダーを自分で作ったり、農機の使用記録をつけてみたりするのもよいでしょう。 あわせて、売上や原価を整理した簡単な経営計画を作ってみることで、経営全体への理解が深まります。
農業は一人ではできません。地域の人との連携がとても大切です。
直接農業には関係ないように感じるかもしれませんが、地域のお祭りのときはどういう対応をするのか、町内会はどうなっているのか、といったこともしっかり聞いておきましょう。
農地を借りている場合は、地主さんとの関係も重要です。
確認すべき4つのポイント「名義」「経営情報」「資産の整理」「話し合い」
スムーズに引き継ぎを進めるために、親にどんな準備をしてもらうとよいのか、また、どの点を一緒に考えていく必要があるのかを、あらかじめ整理しておきましょう。
特に大切なのは、「名義」「経営情報」「資産の整理」「話し合い」の4つです。これらが整っていると、継承が進めやすくなります。
1. 農地・建物・農機の「名義」を整理しておく
農地(登記)や倉庫、ハウス、農機具について、誰の名義で、誰が使っているのかを、親と一緒に確認しておくことが大切です。 3世代にわたって引き継がれている場合など、親と祖父母の名義が混在しているケースも少なくありません。名義が整理されているだけで、承継はぐっと進めやすくなります。
2. 経営状況を「見える化」する
ベテラン農家ほど、経営に関する情報が頭の中だけに入っているケースは少なくありません。 売上や原価といった収支の状況、年間の作付け計画、主な売り先、肥料や農薬の使用ルールなどを、親に話を聞きながら書き出してみるとよいでしょう。
3. 資産を整理する
事業用と個人用の口座や資産、支払いが混在していると、引き継ぎの際に「どれが経営のための資産なのか」が分からなくなり、混乱の原因になります。 まずは、事業用と個人用の口座を分けておきましょう。事業用の口座が複数ある場合は、できるだけ一本化しておくと安心です。
4. 家族内で「将来の話」を少しずつしておく
事業承継は話題に出しづらいテーマですが、先送りにすると後から調整が難しくなることもあります。 将来、農地や設備をどのように引き継ぎたいのか、兄弟姉妹がいる場合に相続で不公平が生じないか、法人化を考えるタイミングはいつ頃かなど、少しずつ話し合っておくことが大切です。
資産の継承対象は農地及び機械と施設です。
経営継承するときに、親や親族の個人の名義のものと事業用資産となっているものを贈与するのか、売買するのか、貸すのかを決める必要があります。
一般的には売買もしくは贈与が多いのですが、後継者の営業が安定するまでは父の所有物として、子に貸すといいでしょう。使用貸借(※)なら無償で貸すことができます。
(※)使用貸借とは
借主が貸主から目的物を無償で借りて使用・収益し、期間満了、目的達成後にその目的物を貸主に返還する契約。
継承を考え始めたら早めに行動を!
経営を引き継ぐ「子」に対して、村上さんは「いつ農業を継ぎたいのか、どのような経営をしていきたいのかという思いを、計画書にまとめて親に伝えてほしい」と話します。
引き継いだ後は、現状から2割ほどの成長を目指すつもりで計画を立て、実行していかないと、経費の高騰などの影響もあり、収穫量や売り上げは徐々に落ちてしまう可能性があるといいます。
また、データ上でも、親が引退直前まで経営主体でいるより、子が早めに引き継いだほうが、経営が安定しやすい傾向が見られるそうです。
親の経営状況を「見える化」し、できるところから、少しずつ動き始めていきましょう。
次回は実践編!
親元就農のよくある質問を、村上さんがQ&A方式で解説。簡単チェックリストや栃木県内で親元就農した先輩農家の事例集も紹介します。












