事例紹介

酒造メーカーの蔵人からいちご農家に。堅実経営で農園を法人化し、2,100万円を売り上げる!

幼い頃から自然に興味があり、好きが高じて大学の農学部へ進学した湯田知昂さん。大学院修了後は酒造メーカーで蔵人(くらびと)に。退職後、故郷高根沢町で就農し、いちご農家になりました。「農業にはなんとなく興味があった」という状態から、1年ほどで新規就農を果たした、その軌跡を伺います。



INFORMATION

湯田知昂さん(ゆだ農園)

ゆだ・ともあきさん|栃木県高根沢町出身。北海道大学農学部大学院卒。和歌山県の酒造メーカーに新卒入社し、2年ほど蔵人(くらびと)を経験する。退職後に帰郷し、知人に誘われて参加した集まりで農業に興味を抱く。JAしおのや「新規就農者育成研修事業」の「株式会社グリーンさくら」での研修を経て2017年より独立就農。現在は5人のパート従業員を雇用し、31aの畑で「とちおとめ」、「とちあいか」、「ミルキーベリー」を栽培する。


農業に魅力を感じ、1カ月で新規就農研修への参加を決意


非農家出身。自然への興味から農学部へ進学し、卒業後は酒造メーカーへ

就農前の経歴について教えてください。


小さい頃から草や虫が好きだったので、大学の農学部に進学しました。
実家は農家ではなかったですし、農業を仕事にすることは意識していませんでした。
大学院で堆肥化や微生物処理について研究した後、新卒で和歌山県にある酒造メーカーに入社したんです。そこでは蔵人(くらびと)として日本酒や梅酒などを製造していました。


酒造メーカーにお勤めだった湯田さんが、農家への転身を考えたきっかけは?


退職後に地元へ戻った時に、地域おこし協力隊で活動している友人から飲み会に誘われました。そこには「4Hクラブ(※)」の会員さんも参加していて、農業のことをいろいろ教えてもらい、興味を持ちました。

(※)農業青年クラブ。若い農業者が中心となり、農業経営をしていくうえでの身近な課題の解決方法を検討したり、クラブ員同士や消費者と交流をする組織。


農業のどんなところに興味を持ちましたか?


誰かに指示されて動くよりも、自分なりに考え、工夫して仕事する方が性に合っているんです。農業なら一国一城の主になれるのではないかと思いました。
高根沢町は農業も盛んで、小さい頃から農家が身近な存在だったことも理由のひとつですね。


「株式会社グリーンさくら」での新規就農者育成研修事業で技術習得

農業に興味を持たれてから、就農に向けての準備はどうされましたか?


飲み会の翌月、4Hクラブの総会に誘ってもらって参加した時に、農業振興事務所の方とお話する機会がありました。
「農業に興味があるなら、新規就農者育成研修事業に参加してみたら?」と提案してくださったんです。いい機会だからやってみようと思いました。農業に興味を持ってから、1カ月で研修参加を決めたんですよ(笑)。


新規就農者育成研修事業は、JAしおのやが設立した「株式会社グリーンさくら」で行われていますね。
グリーンさくらでの研修では、どのようなことを学びましたか?


栽培に関しては、JAしおのや管内で栽培している農産物を幅広く作っているので、何を栽培したいかが決まっていなかった自分にとって、栽培品目が限定されていなかったことは、とてもよかったと思います。

栽培技術のほかにも、経営に関わる簿記や税務、経営分析など幅広く教えてもらい、農業経営に関することは一通り学習できました。


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いちごは栽培計画が立てやすく収益が見込める。県の支援制度も充実

いちごを栽培すると決めたのはなぜですか?



当初は、にら栽培も考えていたのですが、高根沢町にはにらの生産農家が少なく、設備などをすべてそろえるとなると、かなりの資金が必要になるとわかりました。
「いちごなら栽培計画が立てやすく、融資を受ける際にも有利だ」という話を聞き、収益性が高いいちごを作ることに決めました。栃木県では県をあげてのいちご推しですし(笑)


農地は叔父所有の田んぼを借りられた

農業を始める際の農地や設備、資金の準備方法を教えてください。


土地は、叔父が所有していた田んぼを借りることができました。叔父は農家ではなかったのですが、田んぼを2枚分持っていて、近隣の農家に委託して米を作ってもらっていたんです。最初はその土地を20aだけ借りて、いちご用ハウスを建設する計画を立てました。


融資の申請に四苦八苦。自力で計画書を作成して無事審査を通過

借り入れた融資や利用した補助金などはありますか?


融資は、ハウスや機械を導入する際に無利子で借りられる「青年等就農資金」を2,100万円借り入れました。補助金は、国の経営開始資金(旧・農業次世代人材投資資金)年間150万円、それから、高根沢町の園芸作物推進支援事業費補助事業の200万円を利用しました。


融資や補助金を受ける際に大変だったことはありますか?


金融機関に相談をするのは大変でした。
融資を受けるにあたって、事業計画書が必要になるのですが、県のホームページにある書面のひな形を使って自力で作りました。
大学で論文を書いていた経験から、こういった資料を作るのは得意な方なのですが、資材の見積りや人件費などを計算するのに手間がかかりましたね。


20aからのスタートで初年度売上約1,200万円。現在は2,100万円にアップ!


「とちおとめ」「とちあいか」「ミルキーベリー」を栽培

作っているいちごの品種と、それぞれの面積を教えていただけますか?


2023年までは「とちおとめ」のみを栽培していました。2024年からは、「とちあいか」を導入して、秋の定植に向けて苗を育てているところです。
栽培面積は「とちおとめ」が20a、「とちあいか」が11aです。あと、「ミルキーベリー」も直売所での販売用にほんの少しですが作っています。


栽培面積・売上は当初の約1.5倍に。安定した経営基盤を維持

就農当時の栽培面積は20aで、現在は31aまで拡大されました。売上の推移を教えてください。


1年目の売上は1,300万円ほどでしたが、6作目を終えた現在は2,100万円位に増えました。


販売先はJAのほか、直売所や通販サイトも


いちごはどのように出荷されていますか?


「とちおとめ」はJAに7割、農産物直売所に2割、農園での直販とインターネット販売に1割の割合で流通しています。
「とちあいか」はまだ販売していないのですが、卸し先は同じになると思います。「ミルキーベリー」はすべて直売所に出荷しています。


いちご農家になるための相談は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


堅実経営で個人の収入が増加、農園の法人化に踏み切る


現在、従業員は何名いらっしゃいますか?


私以外は全員パートさんで、常勤が2名、繁忙期のみ手伝ってもらう人が3名います。常勤のうちの1名は私の母です。


1日の勤務時間は決まっていますか?


1日に働く時間は決めていなくて、作業予定分の仕事が終われば、早く仕事を切り上げます。時期によりますが、8時開始がほとんどで、遅くても17〜18時には終了していますね。
パートさんもそれぞれの都合に合わせて入っていただく形なので、勤務時間は決まっていません。


個人事業で農業を営んでいる方が多いですが、ゆだ農園では法人化をされていますね。


法人化にあたっては、税理士さんと相談して決めました。現在、収穫作業などをパートさん5名に手伝ってもらっていますが、専従者として勤めているのは私1人です。
個人事業主のままだと「売上−経費」で出た所得すべてに累進課税制度が適用されるため、売上が増加すると税金の負担も多くなってしまいます。

法人化すると比例課税になるため、売上が増加しても一定の税率課税です。私の収入は会社からの給与になり、個人所得にかかる税負担も軽減されますし、今後、売上を伸ばすことを考えればその方がいいと思い、法人化しました。


いちごで新規就農したい人は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


農業の魅力は、働いた分だけ収入になること・時間の融通がきくこと


困った時に頼れる地域の先輩農家や仲間の存在が心強い

これまでに大変だったことはありますか?


毎年、何かしら事件が起こるので、毎年大変なのですが(笑)。
1年目はハダニ類、2年前は野ネズミによる被害が発生して、昨年は炭疽病(たんそびょう)にやられました。
ハダニ類の時は農薬で対処しましたが、先輩農家さんに相談したら、苗を炭酸ガス処理することで防除できると聞き、翌年に炭酸ガス処理の機械を導入しました。
ネズミはわなを100個仕掛けて、その都度ネズミ捕りをしていました。炭疽病は収まるまで待つほかないので、どうしようもありませんでしたが…。


困ったことがあったときは、誰に相談されていますか?


4Hクラブの仲間や先輩農家さんに聞いたり、ハウスを見せてもらったり、業者さんを紹介してもらったりしています。
高根沢町では、いちご農家の後輩も頑張っていますよ。


農業に夢やロマンを持つだけでなく、リアルを直視することが大切

農業を始める前と後では、農業に対する印象は変わりましたか?


そんなに変わっていないです。農業に対して自給自足でのんびりできるようなイメージを持っているとギャップがあるでしょうが、始める前から比較的現実的に考えていました。
農業は「働いた分だけお金になる」ことはある程度理解していましたが、働いてもお金になるとは限らない、という側面もありますから。


農業を始めてみて、よかったと思うのはどんなことですか?


現在は、法人化していて報酬額は自分で決めていますが、サラリーマン時代と比べて2倍程度になったので、やってよかったなと感じています。
それと、閑散期に限りますが、自分のやりたいときに仕事ができて、時間の融通がきいたり、休みの調整ができたりするところがいいと思います。


いちご農家について詳しく知りたい人は、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ


売上目標は3,000万円。一国一城の主になれる農業にはやりがいがある!


これから、農園をどのように発展させていきたいですか?


5年後までに専従者を1名雇って、ほ場を40aまで増やしたいですね。売上を3,000〜4,000万円にすることが目標です。不安なので、お金の計算はめちゃめちゃ毎日やっていますよ。

売れてナンボ、売れないものがいくらできてもしかたがありません。売り先から逆算して栽培しています。JA出荷分は全量買い取ってもらえるので計算しやすいですが、直売用に作っている品種は市場出荷がないので、たくさん作っても困ることになりますから。
堅実に計画して利益を確保しつつ、新しいことへのチャレンジは2〜3割程度と決めています。


これから農業を始めたい人に伝えたいことはありますか?


自由と責任は表裏一体で、自由がある分、一国一城の主となると責任も大きくなりますが、やりがいが感じられて楽しいと思います。
就農してから1作目のいちごを出荷して、お金が入ってくるまでには数カ月かかります。収入が安定するまでの資金計画をしっかりと立てて、事業を計画してください。きちんと仕事をすれば会社員時代よりも1.5〜2倍くらいに収入は増えるはずです。私は収入が増えました!


さいごに

事業計画をしっかり立てて、地に足のついた経営をしている湯田さん。毎年何かしらの困難に見舞われながらも、仲間や先輩農家の助言を受けて、きちんと対処して乗り越えていました。「一国一城の主になりたい」という方は、まずはオンライン相談から始めましょう!


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