コラム

農業コンサルタントが教える いちごの就農までのスケジュール

いちごでの就農にあたっては、作業の流れや栽培技術など多くのことを身につける必要があり、1年又は2年間の研修を受けることをおすすめします。栃木県では、いちご学科やとちぎ農業未来塾、地域の研修機関など、いちご栽培をしっかり学べる研修制度が整っています。いちご農家として独立就農するまでのスケジュール例を、2年制・1年制の研修に分けて解説します。
研修と並行して行う補助金や融資の申請作業、青年等就農計画の申請時期や準備のタイミングなどについて、農業法人の支援経験豊富な農業コンサルタントがアドバイス。
新規就農する場合は、補助金や融資、圃場の準備などのスケジュールをしっかり押さえておくことで、研修を受けながら余裕をもって経営開始の準備を進めることができます。



栃木県で研修を受け、いちご農家として独立就農するまでのスケジュール例を、2年制・1年制の研修に分けて解説します。

研修のカリキュラムや青年等就農計画の認定スケジュールは研修機関や自治体により異なります。この記事で取り上げるのは一般的な例です。また、自治体やJA等で独自の支援制度が設けられている場合もありますので、必ずご自身の受講する研修や就農予定地の自治体の情報を確認してください。


INFORMATION

中野 慧 氏

なかの・けい|アグリコネクト株式会社コンサルティング事業部マネージャー。東京大学卒業後、2013年に野菜品種の育種・販売を行う みかど協和株式会社(当時)に入社。海外営業エリアセールスマネージャーとして、オセアニア・南米・北米の大規模農業法人との取引に携わる。2018年にアグリコネクト株式会社に参画。売上1~8億円の農業法人を集めた研究会を運営。また、個別の経営体支援として、経営理念の作成・組織づくり・生産性改善・財務管理等を行っている。
https://agri-connect.co.jp/


2年制と1年制の研修、どちらを選ぶか


いちごは栃木県の代表的な農産物のひとつ。そのため、栃木県農業大学校での研修のほか、県内各地域にいちご農家になるための研修機関が設置されており、希望の地域や自身のキャリアプランに応じて受けたい研修を選ぶことができます。

研修カリキュラムは研修機関によって異なり、主に2年制・1年制に分かれます。また、地域の研修制度には、働きながら学べるコースや観光農園に特化したコースもあります。


農業も経営も未経験の方には、2年制の研修でじっくり学ぶことをおすすめします。農業、経営のいずれかの経験があれば、研修は1年で終えて営農をスタートしてもいいでしょう。


とちぎでいちご農家をめざす研修についてはこちら

どの研修が自分に向いているのか迷ったら


2年制の研修を受講する場合


いちご栽培の1サイクルは約15カ月かかるので、2年制の研修を受けると一連の流れをしっかり学ぶことができます。
ここでは栃木県農業大学校いちご学科のカリキュラムに沿って解説します。

 

1年目は基礎知識を習得しながら現場実習を行い、2年目には先進農家で1年の流れを掴みながら経営事例の研究、就農計画の作成など、独立後に必要となる知識・技術を身に付けます。

栃木県農業大学校いちご学科のカリキュラム:https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/noudai/contents/


各地域の研修制度についてはこちらをチェック


研修


・研修1年目4~9月

 「いちご学科」の入学は4月です。入学から約半年間は栽培実習(専門実習)と並行して、農業の基礎知識・基礎技術の習得のための座学研修を行います。

栽培実習(専門実習)では、研修施設の圃場でいちごの栽培管理に関する基礎的な技術(育苗、うね上げ、定植、収穫、調整作業等)が習得できます。

 

・研修1年目10~12月

10月からの座学研修では、ここまでに身に付けてきた基礎内容に加え、専門知識・技術を習得するフェーズへ進みます。

 

・研修1年目1~3月|現地実習で収穫繁忙期を経験

1月には企業研修が、2月には現地実習がスタートします。

 

・研修2年目4~3月|先進農家での現地実習開始

2年目に入ると、学校での座学・実習に加え、週3日間は師匠となる先進農家先(とちぎ農業マイスター等)での現地実習も始まります。

座学研修では、自身の経営に必要な就農計画を作成します。


現場実習では「いつ何をしたか」など研修中の記録を残しておくことが大切です。失敗の記録やリカバリー方法など、現場でないとわからないことがたくさんあります。
1回限りの作業では特に重要です。肥料や農薬の散布は準備段階から一緒に作業させてもらうといいでしょう。

翌年には独立していることを想定して、現場でなければ分からないことをすべて吸収するつもりで研修に臨みましょう。


補助金(就農準備資金を活用する場合)


※補助金スケジュールは目安です。窓口担当者によく確認して準備を進めましょう。

 

・研修1年目4~6月|就農準備資金の申請

就農準備資金の申請準備は4~6月の間に行います。なるべく早めに準備を開始しましょう。

 

・研修1年目7~9月

就農準備資金の申請は7月です。8月には就農準備資金審査会が行われ、9月に審査結果が通知されます。


・研修1年目10~3月|資金交付

補助金の交付が決定したあと、1年目は10月・1月の2回、2年目は7月・1月の2回に分けて資金交付があります。


就農準備資金の申請は7月上旬が締め切りです。余裕を持って準備を始めましょう。8月には面接、9月には就農準備資金の結果通知があります。
就農準備資金は半年分が一括で交付されることを踏まえて生活資金の準備もしておきましょう。


移住準備


・研修前~研修1年目|農地探しスタート

農地探しは新規就農の高いハードルのひとつ。スムーズな経営開始には、入学前からすぐにでも農地探しを始める必要があります。いちご学科は地域主体の研修とは異なり、どの地域でも就農が可能なため、就農地が決まっている場合以外はどのエリアで就農をするか絞っていくフェーズです。遅くとも1年目の3月には就農予定地を決定します。

 

就農場所を決定するときは、「いちご農家の多いエリア」「若手農家の多いエリア」「新規就農者の多いエリア」「子どもの通学や生活に便利なエリア」など、重視するポイントを絞って家庭や生活とのバランスが取れる地域を選択することも重要です。


・研修1年目1~3月

就農エリアが決まったら転居の準備を行い、スムーズな転居ができるようにしておきます。物件探し・引っ越しに加え、幼稚園・保育園に通うお子さん、小中高校に通うお子さんがいる場合は転園・転校の準備もこの時期に行わなければなりません。

住居は農地に近い方が望ましいです。


農地探しをする際は、積極的に現地に足を運び、直接話を聞いてみるなど、生の情報に触れることも大事にしてください。また、販路を考慮して就農場所を選ぶことも意識しておきたいですね。観光農園の経営をしたい場合は、農園の立地なども重要になってきます。


就農準備


※就農準備スケジュールは目安です。地域の相談窓口担当者(県農業振興事務所等)によく確認して準備を進めましょう。

 

・研修1年目1~3月|農地の仮契約へ

農地を決めた後、農地の賃借契約を行います。トラブルを防ぐためにも、地権者とよく話し合って契約に進みましょう。実際の契約は2年目の3月までに行うこととなります。


農地の賃借契約は農地バンクを通して行うのが基本です。地権者と口頭での約束はトラブルに発展する可能性もあるので、きちんと契約書を交わすようにしましょう。


・研修2年目4~9月|就農計画の作成

2年目の4月には青年等就農計画の申請書類の作成を開始します。育苗ハウス・出荷用ハウスの規模やレイアウト等も検討し、申請書類に整合性が取れるよう、落とし込んでいく作業も必要です。同時に、青年等就農計画に沿った青年等就農資金の活用について金融機関との相談も行いましょう。青年等就農計画の申請時期は市町によって異なるので、市町の担当者と相談してください。
5月には就農計画に沿っていちごの親苗を申し込みます。


認定新規農業者は市町ごとに申請の時期が異なります。事前に市町の担当部署にスケジュールを確認しておく必要があります。

青年等就農計画の作成等をする際は、農業振興事務所や市町の相談窓口でアドバイスをもらいながら進めるようにしましょう。


・研修2年目10~12月|青年等就農資金の申請

青年等就農計画の認定が下り次第、青年等就農資金の具体的な申請準備を始めましょう。

 

・研修2年目1~3月|本格的な独立準備

金融機関と相談しながら青年等就農資金の申請を行います。融資が実行されるまでの期間は約3か月です。
2年目の最終月である3月までに土地の契約を行い、育苗ハウスの資材や工期の詳細な見積を取得しましょう。


設備投資にかかる金額や資金については青年等就農計画を立てる時点で考えておきましょう。青年等就農計画の作成・青年等就農資金の申請で、資金計画をはじめとする中身を統一することで、新規見積などの手間が省けるだけでなく、青年等就農資金の申請準備にかかる時間も短縮できます。
市町の担当者や金融機関にも書類の書き方を事前にしっかり聞いておきましょう。


「いちご」で農業を始めるにはどのくらい の資金が必要?


営農開始


・就農1年目4~6月

就農1年目の4月に、前年5月頃に注文済みの親株を受け取ります。

また、4月に経営開始資金や経営発展支援事業などの申請があります。補助金は申請時期が限られているので、通常業務と並行して研修中から前もって申請準備を進めておく必要があります。
各種補助制度を有効活用できるよう、申請や交付の時期をきちんと把握しておきましょう。

補助金を活用する場合は、窓口担当者によく確認しながら、ハウス施工や農業機械導入を計画的に行いましょう。

 

・就農1年目7~9月

7月頃にハウスが完成したら、夏の間に出荷用ハウスの土壌消毒を行い、定植準備をしておきます。9月に出荷用ハウスに親苗を定植し、本格的に営農がスタートします。
経営開始資金の初回交付は市町ごとに時期が異なります。市町担当者に確認しておきましょう。


就農までのスケジュールをもっと詳しく知りたいなら


1年制の研修を受講する場合


栃木県農業大学校「とちぎ農業未来塾」や、地域の研修機関の多くは1年制です。地域を決めている方や早く独立したい方におすすめですが、終了後にスムーズに経営がスタートできるよう、農地やハウスなどの準備を研修と並行して行う必要があります。

ここでは、「とちぎ農業未来塾専門研修(Ⅱコース)」のカリキュラムに沿って解説します。


移住準備


・研修前~2月|研修申込み

とちぎ農業未来塾は、研修開始の前年12月から2月に受講生を募集しています。

 

なお、地域の研修機関は、地域によって研修生の募集時期が異なるので研修機関運営事務局に確認しましょう。とちぎ農業未来塾(専門研修Ⅰコース)と併用したカリキュラムとなっている場合には、とちぎ農業未来塾への受講申込みも行いましょう。


地域の研修機関での研修は地元での就農が前提です。県外からの就農など家族での移住が必要な場合、住環境・通学事情を事前に調べておいたり、実際に研修先周辺に足を運ぶなどして、特に慎重に選ぶ必要があります。
すぐに現地を見に行くことが難しい場合は、どのような地域が合っているかをオンライン相談してみるのもよいでしょう。その場合も研修前に一度は自分で現地を見に行った方がいいでしょう。


・研修前1~3月|引っ越し準備
研修先が決まったら物件探しなど転居の準備を行います。4月の研修スタートまでに引っ越しが必要な場合は3月中に引っ越しを済ませておきます。お子さんがいる方は入園・転校などの手続きもこのタイミングです。


研修先や移住先のことで迷ったら


研修


・研修中4~6月

4月には研修がスタートします。週3日(月・水・金曜日)は学内での講義や実習、週2日(火・木曜日)に農家での実践的な実習が行われます

座学研修は、生産技術やマーケティング、経営管理等に関する年間カリキュラムが組まれています。

実習は、学内での実習に加え、現地農家実習があります。この時期は、収穫・調整作業と並行して、次作に向けた育苗が始まります。

 

・研修中7~11月

育苗、定植、定植苗の管理、マルチ張りなどの管理作業を行い、独立後にもそのまま活かせる栽培技術を身に付けます。

 

・研修中11~3月

11月には収穫がスタートするので、そこから研修終了までの間は収穫作業から出荷までに必要なスキルを習得していきます。 


1年制の研修では、「いつ何をしたか」など研修中の記録を残しておくことが特に大切です。失敗の記録やリカバリー方法など、現場でないとわからないことがたくさんあります。
肥料や農薬の散布は準備段階から一緒に作業させてもらうといいでしょう。

翌年には独立していることを想定して、現場でなければ分からないことをすべて吸収するつもりで研修に臨みましょう。


各地域の研修制度についてはこちらをチェック


補助金(就農準備資金を活用する場合)


※補助金スケジュールは目安です。窓口担当者によく確認して準備を進めましょう。

 

・研修中4~6月|就農準備資金の申請

就農準備資金の申請準備は4~6月の間に行います。なるべく早めに準備を開始しましょう。

 

・研修中7~9月

就農準備資金の申請は7月です。8月には就農準備資金審査会が行われ、9月に審査結果が通知されます。


・研修中10~12月|就農準備資金交付

就農準備資金の審査に通ったら、10月に1回目の就農準備資金が交付されますので確認を忘れないようにしましょう。

 

・研修中1~3月

翌年1月には同年度2回目の就農準備資金が交付されます。1年制の研修のため、研修中の交付はこの2回のみです。 


就農準備資金の申請は7月上旬が締め切りです。遅くても1か月ほど前から準備を始めましょう。8月の審査会では面接もあります。
就農準備資金の交付は10月、1月です。交付までの期間も研修に集中できるよう、生活資金は十分準備しておきましょう。


就農準備


※就農準備スケジュールは目安です。補助金申請の意向がある場合は、窓口担当者によく確認して準備を進めましょう。

 

・研修前~3月

研修前から農地探しに向けた動きを開始します。まずは、市町農業委員会や農地バンク、研修先農家などに相談しましょう。


農地探しをする際は、必ず現地に足を運んで生活環境なども含めて就農場所を検討しましょう。また、営農開始後の販路を考慮することも意識しておきたいです。


・研修中4~6月|青年等就農計画

研修が始まったらすぐに青年等就農計画書の作成を開始します。併せて、青年等就農資金の活用について金融機関に相談しましょう。

5月には就農後に購入する親苗を申し込み、6月までに農地の仮契約を済ませます。


青年等就農計画は市町ごとに申請の時期が異なります。事前に市町の担当部署にスケジュールを確認しておく必要があります。

青年等就農計画は、農業振興事務所や市町の窓口に作成のアドバイスをもらいながら進めましょう。複数相談できる先を持っておくことで、多角的なアドバイスを受けられます。


・研修中7~9月

青年等就農計画の作成・申請、青年等就農資金の計画書類を作成するなど、融資に向けた準備を行います。育苗ハウス・出荷用ハウスの規模・レイアウトを検討して見積を取得し、計画書にも落とし込みましょう。

 

・研修中10~12月

青年等就農計画の認定が下りたら、金融機関と相談しながら青年等就農資金を申請します。ハウス資材・施工会社等の見積を取得し、計画書に詳細な金額を書けるようにしておく必要があります。
 


研修と各種申請手続きを同時並行で進めなければならないので忙しくなります。青年等就農計画と青年等就農資金の計画は内容を統一しておくとよいでしょう。認定新規就農者申請や、補助金申請、借り入れ申請する場合には、市町や金融機関の担当者と密に連絡をとっておき、必要な手続きを順序よく進められるようにしておくことも大切です。


・研修中1~3月

仮契約をしていた農地を、3月までに正式に契約します。


農地の契約は、原則、農地バンクを通して契約書を交わすのがルール。契約書内で約束ごとを明文化しておくことで、不測のトラブルを避けられます。


「いちご」で農業を始めるにはどのくらい の資金が必要?


営農開始


・就農1年目4~6月

就農直後の4月には前年に注文しておいた親株の配布があります。

各種補助金の申請時期となっていますので、準備をしっかりしておきましょう。補助金を活用する場合は、研修中から窓口担当者に相談しながらハウス施工や農業機械導入を計画的に行いましょう。

 

・就農1年目7~9月

7月頃にハウスが完成したら、夏の間に出荷用ハウスの土壌消毒を行い、定植準備をしておきます。このとき育苗ハウスも同時に建設するのが効率的です。9月には出荷用ハウスに親苗を定植し、本格的に営農がスタートします。
経営開始資金の初回交付は市町ごとに時期が異なります。市町の担当者に確認しておきましょう。


各種申請やサポート内容について、さらに詳しく知りたいなら


まとめ

いちご研修は2年制・1年制でカリキュラムが異なりますが、研修中はどちらもとにかく多忙で、初期資金に関わる大事な申請もたくさんあります。研修を受けたあとに資金・時間の両面でスムーズな就農が実現するように、窓口担当者に相談しながら、一つずつ計画的に進めていくことが重要です。


スケジュールを壁に貼るなどすると「いつ何をするべきか」を常に意識できますよ。


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