情報記事

【那珂川町】日本の原風景が移住者に人気。「生産者を一人にしない、させない」手厚いサポートでいちご農家に!

栃木県の東北東に位置する那珂川町。周囲をなだらかな山々に囲まれ、中央には町名の由来となった清流那珂川が流れるおだやかな景色が、日本の原風景として移住者に人気の町です。
農業ではいちごやなしなどの栽培が盛んで、近年では休耕田でいちごを栽培するケースも増えています。人と人とがつながる小さな町ならではの行き届いた就農支援といちご生産者のもとでの研修についてご紹介します。



那珂川町の概要

町の中心を流れる那珂川。両岸には田園地帯が広がる

那珂川町は2005年に馬頭町と小川町の合併で誕生した小さな町で、北は大田原市、南は那須烏山市、西はさくら市、東は茨城県と隣接しています。

町の中央を流れる那珂川は関東でも有数の清流で、全国随一の天然鮎(あゆ)の遡上・漁獲量を誇り、鮎釣りの聖地として親しまれています。那珂川の清流と里山が織りなすのどかな田園風景が魅力で、県内外から移住する人も多くいます。


鮎釣りが解禁される6月には多くの釣り人でにぎわう

那珂川の清流に寄り添うようにある馬頭温泉郷は、多くの温泉宿が西向きに建ち、清流を赤く染めながら沈む夕日を眺められることから「夕焼け温泉郷」とも称されています。


那珂川の清流を染める夕日が美しい馬頭温泉郷

北側の丘陵地にある小砂地区は、ゲンジボタルが飛び交うきれいな水と豊かな自然に恵まれた里山で、2013年には「日本で最も美しい村」連合に加盟。緑に囲まれた棚田の絶景が有名で、田植えや稲刈り体験ができる「棚田オーナークラブ」が人気です。


「棚田オーナークラブ」では小砂焼の陶器市に合わせて収穫祭も行われる

栃木県ゆかりの実業家、青木藤作氏が収集した歌川広重の肉筆画や版画など約4,200点を所蔵する「那珂川町馬頭広重美術館」は町のランドマーク。県外からも多くの人が訪れます。


隈研吾氏の設計による那珂川町馬頭広重美術館は地元産の八溝杉の格子が印象的

那珂川町の農業

那珂川町で生産されているいちご

典型的な内陸型の気候で、夏は強い日差しをうけて上昇気流がおこり、局所的な雷雨が起こることも。冬は朝の冷え込みが厳しい日もありますが、積雪は年間5日程度で量も少なく、晴天の日が多いのも特徴です。特に12月から2月の間は晴天の日数が多く、冬場を中心としたいちご栽培に適した気候といえます。
農産物はいちごのほか、水稲を中心にトマト、にら、なし、ぶどうなどの園芸作物や畜産も行われています。



農産品のほか、那珂川でとれた鮎の加工品や地粉を使った手打ちそばなど、地元の優れた商品を「那珂川町ブランド」として認定。認定商品をきっかけとして町のイメージを高め、活性化を図っています。


研修制度「南那須農業アカデミー」

南那須農業アカデミーでの研修(いちごの選別)

那珂川町では、南那須地域新規就農者支援対策協議会が運営する「南那須農業アカデミー」という独自の研修制度を設けています。アカデミーでは、南那須地域(那須烏山市・那珂川町)に定住し、いちごで新規就農を目指す研修生を募集しています。


いちご生産者のもとで農業経営・栽培技術を学ぶ実習型研修

南那須農業アカデミー」では、那珂川町、那須烏山市、各市町農業委員会、農業公社、JA、そして県が一体となり、研修生が安心して農業に取り組めるよう、地域全体で万全のサポート体制を整えています。研修生は、就農に関する専門的な指導だけでなく、住まい探しや日常の暮らしに関するアドバイスも受けることができます。


【研修内容】
いちごの農業経営・栽培技術の基礎・専門講義、いちご生産者のもとで行う実習型研修(いちご栽培管理技術、経営管理等)
【研修期間】
1年(令和7年4月1日〜令和8年3月31日)
【募集条件】

  • 新規就農に意欲があり、心身ともに健康な方
  • 研修終了後に那珂川町・那須烏山市内に居住し、就農できる方
  • 年齢制限は特になし(ただし、新規就農者育成総合対策の対象は、就農時の年齢が50歳未満であることが条件となります)

研修先・研修生インタビュー

取材に訪れたのは、那珂川町でいちご農家を営む川上早春さんの農園。那珂川町の農業や研修の様子について、川上さんと研修生の田中義範さんにお話を伺いました。


(左)研修生の田中義範さん、(右)とちぎ農業マイスター 川上早春さん

川上早春さんは、那珂川町で昭和40年代から続くいちご農家の三代目。夫婦と両親の家族4人で、とちあいか25a、とちおとめ6aを栽培しています。川上さんはいちご栽培歴25年のベテラン。とちぎ農業マイスターとして、これまで3名の「南那須農業アカデミー」研修生を受け入れてきました。現在は3人目の研修生、田中義範さんの実地研修を行っています。


とちあいかは甘くて果汁も多く、食べ応えがあるいちごです。収量が多いことや、三角錐(さんかくすい)の整った形でパック詰めしやすいこともメリットですね。試験栽培を含めると4、5年やっていますが、本格導入された2年前からはメインで栽培しています。


生産者による栽培方法の違いを学ぶ


いちごの栽培方法は、ハウス内に畝立てした土壌で栽培する「土耕栽培」と、腰高のベンチの上で培地と養液で栽培する「高設栽培」の2つに大きく分けられ、川上さんの農園では「土耕栽培」でいちごを栽培しています。取材に訪れた9月上旬は定植苗をポットで育苗しているさなか。株元が10ミリほどの太さまで育ち、花芽を確認できたタイミングで定植を行います。



定植苗の育苗は、春先に親株から発生したランナー(ほふく茎)をセルトレイやポットに受けて根付かせ、7月ごろに親株から切り離して育苗する「受け苗方式」が一般的ですが、親株のハウス内にセルトレイやポットをたくさん置く必要があります。そのため川上さんは、切り離したランナーを直接ポットに挿し芽して育てることで、育苗の手間とスペースを効率化しています。また、育苗はセルトレイやビニールポットではなく、生分解される紙ポットを使用しており、そのまま畝に定植することで、ポットから苗を外す手間を省いたり、根を傷めるリスクを軽減できるメリットもあります。


栽培方法には農家それぞれにこだわりがあり、親方の紙ポットを使うやり方はおもしろいですね。それに加えて、JA担当者がほかの地区のほ場見学に連れて行ってくれるので勉強になります。トレイを使ってシステマチックに作業をしている方や、ハウスの形状を工夫している方など、農家によってさまざまなやり方があるんですよ。親方の栽培方法を基本としながら、自分なりの工夫を取り入れ、頭の中で新しいビジョンを組み立てています。


地域一丸となった手厚いサポートが就農の決め手に


研修生の田中さんは、不動産業、飲食業の社会経験を持つ47歳。以前から農業への憧れはあったそうですが、始めるきっかけを見つけられずにいたところ、栃木県の相談窓口で南那須地域には新規就農者に手厚いサポートがあることを聞きました。さっそくJAなす南を訪ねたところ「南那須農業アカデミー」の制度を紹介され、農業へのキャリアチェンジを決意したといいます。


まずは9月にいちごの定植体験会に参加しました。定植苗を植えたんですが、11月に収穫体験会に行くと植えた株に大きな実がなっていたんですよ。それを見て「これはすごい!」と感動しました。自分が作った物で人を感動させられるって素晴らしいですよね。自分も作る側に回りたいと強く思い、南那須農業アカデミーでの研修を決めました。


農地探しのポイントは地下水が利用できるかどうか


田中さんはお隣のさくら市で父親と二人暮らし。現在は車で20分ほどかけて川上さんの農園まで通っています。研修時間は研修先によって異なりますが、川上さんの農園では朝7時から正午まで。早朝5時に始まる研修先もあるなか、家事もこなさなければいけない田中さんにとっては7時スタートで助かっているそうです。


農作業は早朝から始まりますが、研修生は遠いところから通っているので、スタート時間は遅めに設定しています。いちご栽培は温度管理や水やりなど、こまめに面倒をみる必要があるので、実際に始めるときは家の近くに農地を探してハウスを建てるのが理想です。


研修を終えたら那珂川町に移り住んで父親と二人でいちご栽培をはじめる計画の田中さん。現在はJAや町のサポートを受けながら、栽培方法やパイプハウスの形状を検討しつつ、条件に見合った農地と家探しも始めています。那珂川町でいちご農家を始めるにはどのような農地を探せばいいのか、川上さんにポイントを伺ってみました。


この辺りには高齢で水稲栽培ができなくなった人も多いので、休耕田を借りてパイプハウスを建てるのもいいですね。よほど山際でもない限り、田んぼは日あたりもよく条件のよいほ場になると思います。パイプハウスはウォーターカーテンで温度を維持するため、地下水が出る農地を探すことも大切なポイントです。


ウォーターカーテンとは、くみ上げた地下水をハウス内のビニールカーテンに散水して保温する技術で、年間を通して15〜20℃程度と温度が安定している地下水が不可欠。水田であっても水は用水路から引いているため、必ずしも地下水があるとは限らないそうです。


町ぐるみで独り立ちするまで就農者をサポート

(参考)月別研修内容の一覧。研修年度により変更になる場合があります。

南那須農業アカデミー」のカリキュラムでは、研修生は1年かけて農家から栽培のイロハを学ぶ一方、JAや県農業振興事務所で行われる座学にも参加。4月から9月までの前半は病害虫や雑草、農機具の知識のほか、農業複式簿記や労務管理など経営面の知識も学び、10月以降は前半で身につけた知識をもとに就農に向けた5カ年収支計画を含めた青年等就農計画を作成します。青年等就農計画には、認定新規就農者としてさまざまな支援策を利用できるメリットがあると同時に、農業経営の早期安定化をめざすためにも重要な意味があります。


JAでは昨年から「担い手コンサルティング」の取り組みを開始し、農業者の悩みや課題に寄り添いながら、経営の課題解決にも注力しています。JAの担当者は、「農業で生計を立てられるようになってからが、本当のスタートです」と語っています。特に、就農初期は農作業に集中するあまり、経営の数字を見落としがちです。そこで、5カ年収支計画に基づいて定期的に進捗を確認し、必要に応じて軌道修正のアドバイスを提供するなど、収支面においても継続的にサポートを行っています。


研修希望者へのメッセージ

生産部会には研修生のうちから参加してもらっていて、10代から40代の人も10名ほどいるので、同世代同士で相談もしやすいようです。私たちのような先輩農家ともつながりができるので、就農後も地域のコミュニティに入りやすいと思います。農業は初期投資の額が大きいので、最初は無理せず、小さく始めて少しずつ規模を拡大していくのがよいでしょう。


農業専門用語など、わからないことは図書館やネットでも調べています。栽培方法や設備の選び方など、パズルのピースを一つずつはめながら、自分の絵を描くような楽しさが農業にはあります。病気の発生など失敗も付きものだと思いますが、努力した結果が成果物として目に見えるのも醍醐味(だいごみ)。他県の友達にいちごづくりの話をするとみんな喜んでくれて、栃木のいちごが愛されていることに、改めて気付くこともできました。


INFORMATION

【研修先農家】川上早春さん

祖父の代から半世紀以上続く、那珂川町のいちご農家。早春さんご自身は2000年にそれまで勤めていた会社を退職、三代目として実家の農業を承継。現在はとちあいか25a、とちおとめ6aを栽培している。早春さんはJAなす南のいちご生産部会青年部の代表も務める。


まとめ

那珂川町では、「生産者を一人にしない、させない」をモットーに掲げ、就農前から就農後の経営発展まで、JAなす南、市・町、農業公社、農業委員会、県等が一体となって新規就農者を支えています。特にJAなす南は、一市一町という小規模な農協ならではのきめ細やかなサポートが特徴で、経営面では「担い手コンサルティング」による支援が非常に頼もしいと感じました。他府県からの移住者も含め、長期的に安心して農業に取り組める環境が整っている印象を受けました。


#事例紹介

引退する農家の事業を受け継ぎ果樹栽培に挑戦!
南那須農業アカデミーで研修し、第三者継承を実現した中村麻衣さんの新規就農事例


田中さんの就農のきっかけとなった相談窓口はこちら


農地情報

那珂川町では、農業委員をはじめとした地域のネットワークを用いて、就農に適した農地探しを支援しています。また、農地を手放す人と就農予定者のマッチングを行い、第三者承継の仲介も行っていますので、詳しくは以下の那珂川町役場までお問い合わせください。

 

那珂川町役場 農業委員会事務局農地調整係
〒324-0692 栃木県那須郡那珂川町馬頭555
E-mail:nnouchi@town.tochigi-nakagawa.lg.jp
TEL:0287-92-1185/ FAX:0287-92-3081


空き家情報

那珂川町地域資源情報バンク検索サイトにて物件情報を掲載しています。登録されている空き家の購入、または改修に際しては、要した費用の一部を補助する支援制度もあります。

 

那珂川町地域資源情報バンク検索サイト「なかがわぐらし」
http://shigen.town.tochigi-nakagawa.lg.jp/


相談窓口

就農や研修、移住に関するご相談は以下の窓口にお問い合わせください。

 

【就農相談】

那珂川町産業振興課 TEL:0287-92-1113

【移住・定住】

那珂川町企画財政課 TEL:0287-92-1114


迷ったらとりあえず相談

こうかな?どうかな?と
悩む時間はもったいない!
気軽に相談してみよう!

相談してみる
戻る