5人で「UTSUNOMIYA BASE」結成!クラウドファンディングで資金を調達
農地や必要な農業機械は友人の協力を得て確保し、栽培技術は働きながら学ぶ
INFORMATION
西澤代志也さん
UTSUNOMIYA BASE にしざわ・よしやさん|埼玉県所沢市出身。元プロサッカー選手。浦和レッズ、ザスパ草津、栃木SC、沖縄SVで16年間にわたり活躍。沖縄では、沖縄SVサッカースクールのコーチを兼任。2021年のシーズンをもって引退し、コーチも退任。2022年3月より「UTSUNOMIYA BASE」で農業プロジェクトをスタート。主に農作業とSNS運用を担当している。
UTSUNOMIYA BASE うつのみやべーす|西澤代志也さん、現役プロバスケットボールプレーヤー・渡邉裕規さん、コミュニケーションディレクターの服部竜大さん、家業が農業の吉澤康晴さん、大手脱毛サロン店長から転身した清水玲音さんら5人で結成した農業プロジェクト。「楽しいを耕す」をテーマに、地球、環境、人に優しい活動を行う。
https://utsunomiya-base.com/
サッカー選手を引退後、信頼できる友人の誘いで農業の世界へ飛び込む
サッカーに全身全霊で向き合った現役時代
西澤さんはプロサッカー選手として16年間活躍されていました。引退後のセカンドキャリアについて、ご自身ではどのように考えていましたか?
僕は2021年に引退したのですが、自分がサッカーから退くと決めた時点では、次に何をするのかまったくイメージできなかったんです。現役の時はサッカーに集中したかったので、11月のシーズン終了まで将来のことは何も決めていませんでした。
スポーツ選手がセカンドキャリアへ進む場合、専門エージェントがあり、飲食業界や保険業界などに次のステージを求めるケースも多いと思いますが、西澤さんは農業を選ばれました。きっかけはどんなことでしたか?
自分にとっては「サッカー選手を超える仕事はないのではないか」と思ったんですね。それなら、職種ではなく「誰と仕事をしたいのか」で考えてみようと。いろいろと考えていく中で、栃木SC時代の仲間と何かやりたいな、と思うようになりました。
農業を選んだのは、B.LEAGUE 宇都宮ブレックス所属のプロバスケットボール選手・渡邉裕規くんからの誘いがきっかけでした。彼とはスポーツのジャンルは違いますが、栃木SC時代に宇都宮市内の飲食店で出会い、意気投合して仲良くしていたんです。
渡邉さんからの誘いを受けたことが、農業の道へ進むきっかけだったのですね。
渡邉くんからは、引退を決める前から農業の誘いを受けていました。2020年のコロナ禍が始まったころです。当時はB.LEAGUEも、もちろんJリーグもそうですけど、試合やイベントが全部中止になって、外出自粛の期間が長かった。
農業をやっている僕らの共通の友人がいて、コロナ禍でも彼のなんら変わらない日常を見た時に「パンデミックが起きても、持続可能なのは農業なんだ!」と渡邉くんは感銘を受けたと言います。それで、「農業」への想いが芽生えて「一緒にやらないか」と僕を誘ってくれていたんです。
農業はまったく選択肢になかった。だからこそ「やってみたい」
渡邉さんから誘いを受けて、最終的にどのように決断されたのでしょうか?
沖縄SV時代に、チーム全員でコーヒー栽培を行っていて、農業の経験は少しだけあったんですよ。でも、「農業って大変だな」と思っていたので、誘ってくれた当初はそれを受け流していました。
2021年にサッカー選手を引退すると決めて、両親や渡邉くんに報告したとき、改めて彼から「農業をやらないか」と打診されました。何度か話し合いを重ねた結果、農業をやってみることにしたんです。
農業をセカンドキャリアに選ばれるときに、不安はありませんでしたか?
不安は本当になくて、知らないことだらけで逆に新鮮でしたね。農業は、いちばん選択肢にはなかった職業でした。今までまったく考えもしなかったことをやってみるのもいいな、と思ったんです。
5人で「UTSUNOMIYA BASE」結成!クラウドファンディングで資金を調達
農業を始めると決めてから、動き出すまでにどんな準備をされましたか?
渡邉くんと僕の話に、農家の友人の吉澤くんも賛同してくれたので、3人でこれからのことを話しました。
現場は僕と吉澤くんがメインで作業して、渡邉くんは現役だからシーズンオフに畑仕事をする、など決めていくうちに、他にも必要な役割が出てきたんです。
僕たちには、ただ野菜を作るのではなく、自分たちが創る「美味しい」と「楽しい」を多くの人(仲間)に届けたい、そんな構想がありました。
それを実現するため、ブランディングやPRを得意とする服部さんと、人に好かれるキャラクターの清水くんにも声をかけ、メンバー5人でスタートすることになりました。
メンバーもそろい、農業を始めるにあたって運転資金が必要になりますが、融資や助成金、補助事業などは申請されましたか?
まずは自分たちで限界までやってみようと、融資や助成金などは利用しませんでした。運転資金はクラウドファンディングで調達することにしたんです。クラウドファンディングなら、資金を集めるだけでなく、皆さんに僕たちの活動を知ってもらうことができるので、挑戦してみようと。
公的な補助金などは利用せず、クラウドファンディングからスタートされたのですね。
最初は、クラウドファンディングのやり方がわからなかったので、運営会社に相談してアドバイスをもらい、目標金額を30万円に設定しました。ありがたいことに開始1時間で目標を達成。その後も終了期間まで応援していただいて、最終的に700万円ほどのご支援をいただけました。
応援して下さった方たちへのリターンは何を用意されましたか?
オリジナルTシャツや夏に収穫できるとうもろこしボックスのほか、野菜の収穫体験や、種まきから収穫までご自身で育ててもらう野菜のプロデュース権など、ご支援いただく金額によってさまざまなリターンを用意しました。
農地や必要な農業機械は友人の協力を得て確保し、栽培技術は働きながら学ぶ
農地や農業機械はどのように確保しましたか?
吉澤くんの実家の農園から、使っていなかった畑と農業機械を貸してもらえることになり、20aからスタートしました。
作物が育つまではUTSUNOMIYA BASEとしての収入はありません。農業のことも何も知らなかったので、吉澤くんの実家のとうもろこし農園で、彼のお父さんの作業を手伝いながら学ばせてもらいました。今でも頻繁に手伝いに行っています。現場では吉澤くん本人からもいろいろと教えてもらっています。
とうもろこしがメイン。就農3年目の今、少量多品目で200種類の品目を栽培
就農1年目はどんな作物を栽培していましたか?
とうもろこし、じゃがいも、さつまいも、さといも、なす、ピーマン、ズッキーニ、トマト、ごぼうなど、春夏秋冬でいろいろ作りました。
まずはとうもろこしをメインにすると決めて、そのあとは、みんなが知っている育てやすい野菜から始めました。100種類ぐらい作っていたと思います。
2024年には就農3年目を迎えられました。現在の農園の様子はいかがですか?
栽培品目は200種類に増えました。基本的に、年間を通して常に活動している状態ですね。
1月は、野菜の管理作業をメインに行っています。2月後半から3月にかけてはとうもろこしの土づくりをしながら冬野菜の収穫。4月以降は季節に応じて種まき、定植、収穫、納品を繰り返しています。マルシェやイベントは年間通して実施している状況です。
農作物のほかオリジナルグッズを開発し、ECサイトで販売
作った野菜の販路について教えてください。
野菜は、宇都宮市内のショッピングセンターに常設コーナーを作っていただいたので、毎週土曜日に納品しています。ほかにはマルシェやECサイトでの販売や、レストランへも卸しています。シェフが畑に足を運んでくれて、直接見てもらいながらあれがほしい、これがほしい、とその場で話をしています。
野菜以外にも、オリジナル商品をホームページで販売されているんですね。
最初に販売した真空断熱ボトルは、イベントや畑の収穫体験に来てくださったお客様の声を形にしたものです。真夏の炎天下の畑でペットボトルのドリンクがぬるくなったり熱くなったりしていて、水筒があればうれしいな、というところから商品化しました。
僕らは「地球と人に優しい」を活動の軸にしているので、水筒だったら、ずっと使ってもらえるし、サステナブルですよね。真空断熱ボトルは服部さんの知り合いを通じてコラボレーションが実現し、アパレル系のものは渡邉くんの後輩にデザインしてもらっています。
栃木で農業を始めるなら、栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ
畑は20aから75aに拡大。収穫イベントでお客様同士の輪が広がっていく
当初20aだった畑も、現在は75aまで面積を拡大されました。農地はどのように確保されたのでしょうか。
2年目から増やした畑は、吉澤くんの知り合いの農家さんからお借りしています。「若い世代に頑張って欲しいから、どんどん使ってくれ」とおっしゃっていただけて、ありがたく使わせてもらっています。
栃木のみなさんは本当にあたたかくて。畑で作業をしていると、近隣の方々が通りすがりによく声をかけてくださるんですよ。農業に詳しい人が多いので、わからないことがあれば、その方たちに聞いています(笑)
シェアファームや子ども向けのイベントなど、さまざまな企画に取り組む
年間を通してイベントを企画されていますが、具体的にはどんな内容なのですか?
昨年からは、新たにシェアファームを始めました。一般の方を募集して、年間通して畑で一緒に作物を栽培していくというプロジェクトです。夏にはとうもろこしの収穫体験も行います。あとは、子どもたちが自由に野菜の種をまく「キッズベース」もあります。2022年から毎年、宇都宮市内で夏祭りイベントも開催しているんですよ。
イベント参加者の笑顔に勇気づけられ、失敗から教訓を得る
イベントには大勢のお客様が参加されています。参加者の感想や反応はいかがですか?印象に残っているできごとなどがあれば教えてください。
イベントに来てくださったお客様同士が仲良くなって、「2人でカフェに行ってきました!」という報告を受けたり、イベントに参加していた方々が東京でも集まった、という話を聞くと、どんどん仲間の輪が広がっていて、僕たちのチーム名「Laugh&Co.」(笑顔と仲間)に込めた自分たちの想いや見たかった景色が実現していて、とてもうれしいです。
イベントでの失敗談や、農業で苦労したことはありますか?
1年目は、とうもろこしを自分たちだけで栽培し販売したのですが、2年目は参加者の皆さんにとうもろこしの種を撒いてもらい、収穫時期になったら畑に来て収穫してもらうという取り組みをイベントとして企画しました。
収穫時期を予測してイベント日を決めて参加者を募ったのですが、その年は猛暑で、想定よりも2〜3日早くできてしまったんです。さらに高温障害でとうもろこしがしぼんで、イベント当日に満足なものをお渡しできなかった方もいらっしゃいました。
収穫体験には70名以上の方が参加されていて、最終組の方々には、急遽別の畑にある野菜を収穫してもらって、お持ち帰りいただきました。皆さん一人ひとりに謝罪したのですが、ご理解とともに「楽しかった」というあたたかい言葉をいただけたのは、本当にありがたかったです。
この経験から「天候には勝てない。自分たちの都合ではなく、野菜の成長に合わせてお客様に来ていただくようにしなきゃいけない」ことを学びました。
まずは相談!栃木県農業振興公社のワンストップ窓口へ
今も変わらず応援してくれる人がいる。手の届く人たちを幸せにしたい
現在3年目で、さまざまな活動を行われていますが、今後の目標など教えていただけますか。
僕たちは、農薬や化学肥料を使わずに野菜を栽培していて、大変なことも多々あります。そんな中、UTSUNOMIYA BASEの野菜を買ってくださる方、「食べたい」と言ってくださる方が増えてきているので、今後は畑の面積を増やしていきたいと思っているんです。それから、日本人の食の中心はお米だと思うので、UTSUNOMIYA BASEブランドのお米づくりにも挑戦したいです。
あとは「UTSUNOMIYA BASE」から、みなさんの輪がどんどん広がればうれしいです。まずは、近くで応援してくれる、手の届く人たちを幸せにしたいです。
多様なキャリアを持つ仲間と一緒に農業を行うことで喜びは何倍にもなる
「UTSUNOMIYA BASE」には様々なキャリアを持つメンバーが集まっています。5人でやってよかったな、と思えることはどんなことでしょうか。
5人はキャリアも違うし、育った環境や人脈もまったく異なります。それぞれの友人たちや興味を持ってくれる新しい仲間がどんどん増え、その輪がさらに大きく広がっていくのは5人でやっているからこそのメリットだなと思いますね。1人でやっていたら五分の一の力ですから。
セカンドキャリアで農業を志す人へ「まずは半年間、考えてみてほしい」
今後、スポーツ選手のセカンドキャリアとして、農業を選択する人が増えていくのかもしれませんね。
僕の農業デビューは、1日4時間の畑の石拾いだったんです。それも3日間連続で(笑)。その時は新鮮で「これが農業なのか!」という感動がありました。でも、もちろんそれだけではなく、農業は「想像の100倍大変」でした。体力的には現役時代の何倍もきついです。
もし、今後農業をやってみたいと思うのなら、半年間ぐらい体験してみて、セカンドキャリアとしてやっていけるかを考えてもいいと思います。
相談を受けたら、最初に「農業はやめた方がいいよ」って言うようにしてるんです。僕に反対されてやめるぐらいならそこまでの覚悟ですし。それでもやりたい、となったら「よし!一緒に何かやろうぜ!」って言えるかな(笑)
僕は、5人の仲間と一緒だから農業にチャレンジできました。そして、現役時代に応援してくれていた人たちが、今も変わらず見てくれている環境が本当にありがたいです。
畑に来て「何かお手伝いできることはありませんか?」と多くの方に声をかけてもらったり、イベントやマルシェにもたくさんの人が来てくださいます。「おいしい」という声を直接聞けて、買ってくださった方の顔が見えるからこそ、農業を続けていられるんだなと思います。
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さいごに
畑の拡大、六次化商品の開発、県外マルシェへの出店など、次々と新境地を開拓している「UTSUNOMIYA BASE」。西澤さんをはじめ、農業未経験だからこその柔軟な発想で、農業に新しい魅力を見出していると感じました。1人だと乗り越えられないことでも、仲間と一緒なら乗り越えられる、そんなグループ農業が、これから増えていくかもしれません。