事例紹介

収入を得ながら栽培技術を習得し、農業経営者になる方法|雇用就農から独立を果たしたいちご農家に聞く

生まれ育った栃木県真岡市で、製造業から雇用就農を経て独立就農した石川泰之さん。農家出身ではない石川さんが農家に憧れ、いちご農家になるまでのステップを追いながら、農業経営を発展させている、現在までに得たノウハウを聞きました。雇用就農で働きながら技術を習得し、独立就農するための具体的な方法をお伝えします。



INFORMATION

石川泰之さん

いしかわ・やすゆきさん|栃木県真岡市出身。製造業での12年間の勤務を経て、平成29年に新井農園(現株式会社ベリーズバトン)に雇用就農。いちごの栽培技術を2年間学んだのち、平成31年(令和元年)4月に独立就農する。当初の計画通り、売上とのバランスを見ながら兄弟を雇用し、就農5年目の現在は栽培面積36a。14棟のハウスと4棟の育苗ハウスで「とちおとめ」を生産し、その全量をJAに出荷している(栽培品種は今後「とちあいか」に変更予定)


一度はあきらめた農家への道。12年勤めた会社を辞めて、本気で取り組もうと決意!


農業に従事する以前は、どんなお仕事をされていましたか?


地元の工業高校を卒業後、12年間製造業で働いていました。
農業には高校時代から興味や憧れがありましたが、簡単ではないので一度はあきらめました。その後、就職してからずっとお世話になってきた上司が退職して、会社の方向性が変わってしまったんです。目指すものがなくなり、それならあきらめていた農業に対して本気で取り組んでみようと思いました。


農家になりたいと考えたときに、誰に相談しましたか?


真岡市はいちごの産地で、知り合いや同級生の友達の家がいちご農家という環境で育ったので、いちご農家に興味を持っていたんです。
でも、どうしたらいいのかわからなかったので、会社を辞める1年前の4月に、まずは県芳賀農業振興事務所に電話をしました。そうしたら担当の方が会って話を聞いてくれて、参考になる書籍やとちぎ農業未来塾など、県内のいちごの研修制度について案内していただきました。


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16カ月かかるいちご栽培のすべてを学ぶため、雇用就農での技術習得を選択


研修先については、どのように考えて選択されましたか?


芳賀農業振興事務所で教えてもらった研修制度は、どれも4月始まりの1年間でした。でも、いちご栽培について自分で調べてみたら、苗づくりから収穫までに16カ月ほどかかると知ったんです。真岡市の場合、前作の収穫中の3月に次作の親苗を定植するんですけど、4月から学び始めるとその育苗を途中から見ることになるんです。

将来的に独立を目指すのであれば、どう定植して育てるのか、すべてを知っておきたいと思ったので「2年間、もしくは自分が納得いくまで働かせてくれる農家さんはいませんか?」と、芳賀農業振興事務所に相談しました。


研修を受けて体系的に学びながら新規就農を目指す方法もあったと思いますが、石川さんは雇用就農を選ばれたのですね。


雇用就農を選んだのは、いちごの栽培サイクルを一通り習得できることと、大規模な農家さんであればさまざまな栽培方法や、農業経営に関しても学べるのではないかという期待もあったからです。

芳賀農業振興事務所から、地元の新井農園(現株式会社ベリーズバトン)を紹介いただいて、面接を受けました。
「将来独立したい」という考えは伝えていたんですけど、新井さんからは「いちご栽培は本当に大変なことも多いし、まずは一度働いてみたほうがいいよ」と言っていただきました。


働きながら心がけていたことはありますか?


自分がやっている、経営しているぐらいの気持ちで学びました。初めて学んだことでも、のちのち全てをひとりでもできるようにと、必死で作業内容を写真などで記録していましたね。いつ独立してもいいように、1日1日を過ごしました。


雇用就農での研修を考えている人に、アドバイスできることはありますか?


その日に学んだ作業は、来年まで経験できないこともあります。雇用期間中であれば、もう一度復習をかねて経験出来る事が雇用就農の良いところですね!


新井農園さんでは2年間働いておられたのですね。実際に独立を決断したときに、決め手になったのはどんなことですか?


農園で働くなかで、半年間必死で温度管理をしながら、収穫できた時の喜びはひとしおです。農繁期が終わった瞬間に、従業員全員で感じる達成感を目の当たりにして、やっぱりこれを自分でやってみたいと思いました。

農業への思いが改めて確信に変わり、独立へのきっかけになりましたね。もちろん大変さも肌で感じたんですけど、それ以上にやりたい気持ちが勝りました。


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雇用就農から独立就農へのステップ|農地の確保や融資の実際


遊休農地を見つけ、何度も足を運んで半年後に合意形成

農地はどのように確保しましたか?


真岡市の農政課に相談したら、真岡市農業委員会や真岡市農業公社があると教えていただきました。その後、農地を探していたら、農業を引退された方の遊休施設を見つけたんです。その年の6月までいちごを栽培されていたんですが、来作はもう作らないということで、ほ場はきれいに片付けられていました。

ただ、持ち主の農家さんの方も「誰でも貸すよ」というわけにはいきません。農政課の方が何度も同行してくださって、合意形成できるまで半年間、積極的にバックアップしていただきました。


貸す側の農家さんも自分も、お互いに相手のことを知りたかったと思いますし、繰り返し伺うなかで、契約条件や返却時の状態などの確認もして、お互いに納得することができました。条件については直接話しましたが、農政課の方が同席してくれたことで「ほかの方の場合はこうですよ」といった例を挙げてくれたり、調整の提案をしてくれましたね。その結果、翌年4月から農地をお借りできました。


融資の審査や事業の活用には時間がかかる。ハウスを建てて定植までのスケジュールに注意

就農計画の作成はいかがでしたか?


思ったより順調にできました。芳賀農業振興事務所の方からは、青年等就農資金の融資や経営資源有効活用リフォーム支援事業※を活用するためには、5カ年の青年等就農計画を作成し、認定新規就農者になる必要があることを教えていただきました。

ただ、まだ農業をはじめていない状態で作成するので、資材の相場や減価償却などがわからなかったのですが、書類作成から申請までサポートしていただきました。

※新しく農業を始める際の初期投資負担を軽減するため、経営を打ち切った農業者等から継承した施設や農業機械などの修繕に係る経費を補助する事業


自分が活用した青年等就農資金は、融資の審査に時間がかかったため、6月中旬にハウスを建て始めて完了したのが7月下旬でした。そうすると、夏に約1カ月間行う必要のある土壌消毒がギリギリのタイミングだったんです。

事業の活用や融資を受けるにあたっては、事前の発注や着工は許されないですし、ハウスを建てるのにも一定の工期がかかります。早めに市町や県農業振興事務所にスケジュール等を相談し、いつまでにどのように動いたらよいか確認することをおすすめします。

いちごの場合、収穫作業が始まると就農に向けた準備の時間が確保しづらくなります。見積書の徴収など事前に出来ることは、やっておきましょう。


いちごの収穫が始まるまで、最低半年分の生活費は用意

融資や補助金などは何を利用されましたか?


青年等就農資金を1,800万円借り入れしました。ほかに、国の農業次世代人材投資事業(経営開始型)や栃木県の経営資源有効活用リフォーム支援事業、真岡市の新規就農者育成確保支援事業(経営支援)ですね。補助金があったおかげで、融資のうち一部は使わずに済みました。

自分の場合は経営開始にあたり、増反(栽培用ハウスの増棟)もしたんですけど、前経営主から継承したビニールハウスだけでスタートすれば、初期投資費用はもっと抑えられたと思います。新たにハウスを建てたので、その分の水の配管やポンプなども必要になったので、結構費用がかかりました。


自己資金なども用意されていたのですか?


当面の生活費分の貯蓄はありました。貯蓄以外に、国の農業次世代人材投資事業(経営開始型)で年間150万円交付を受けていましたが、半年に一度の振込でした。いちごは12月にならないと収入が得られないので、営農資金とは別に生活資金をしっかり確保しておいた方がよいと思います。


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10年間は稼いだ利益を設備に再投資! 規模を拡大して、雇用も増やす


兄弟2人を雇用しリーダーとして育成中。今後は共に働く仲間を募っていく

現在の販路は?


今は全量をJAに出荷しています。今後もJA出荷を基本に考えております。


当初の計画通りに、経営は順調に進んでいますか?


計画は厳しめに設計したこともあり、実際には計画を上回ることができています。とにかく10年間は、自分の所得を上げることよりも設備投資を優先すると決めているので、稼いだ利益は再投資しています。お金は貯めずに、それを元手にまたハウスを増やして、といった具合ですね。


今後の経営目標はどうですか?


農地を借りるのは大変ですが、さらに規模を拡大したいですね。それによって雇用を増やしたいと考えています。今は兄弟2人を雇用していて、農園のリーダーを担えるように成長してほしいと考えています。そこからさらに、一緒に農業をやる仲間を増やしていく計画です。

農業は大変だという印象が大きいですけど、やってみたらそれ以上に楽しいので、その良さをみんなで共感しながら働ける組織を作りたいと思います。


自分のやりたいことで生活できるようになったこと自体が「勝ち」

石川さんは雇用によって周囲の人や地域もよくしようと考えられているんですね。


自分も弟たちもそうですけど、自分のやりたいことで生活できるようになったこと自体が、もう「勝ち」だと思っています。その上で達成感があってそれに所得がついてくるような形で、安定経営が出来ればうれしいです。


10年間は設備投資を優先するとのことですが、その間で基礎が固められると良いですね。


経営の基盤をつくって強化したいと考えています。その後は、たとえば自分たちの所得が減ったとしてもマイペースでいく選択をしてもいいですし。


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毎年が新スタート! 全て経験になるのが農業の魅力


独立就農後、困ったときには誰に相談していますか?


栽培については、JAや芳賀農業振興事務所に相談すると丁寧に教えていただき、とても心強かったですね。最初のうちは全てが不安でしたが、地区を回られている技術担当の方が定期的に来てくれるのも安心できました。

今は仲良くしていただいている先輩農家さんが、シーズン中の忙しい時期でも電話したらすぐ駆けつけてくれたり、相談に乗ってくれたりしています。面倒を見ていただいていて感謝しています。


憧れていた農業を仕事にできて、よかったと思うことはありますか?


新規就農するということは、個人事業主になるということ。やらずに後悔するより、やって失敗するほうがいいと思います。失敗しても、それは後悔ではなく経験になるじゃないですか。

しかも普通のビジネスの場合は、失敗したらその後も失敗を引きずる可能性はありますが、いちご農家の場合は、作付けごとにリセットされてまたゼロから始めることができます。失敗もすべてが経験になるのが農業の魅力であり、面白さなんじゃないかと思います。


栃木で就農する強みはなんだと思いますか?


県全体の、いちごや農業を始める方へのサポートや支援制度が充実していることだと思います。行政の皆さんも、すごく親身になってくれますから。

栽培のメリットとしては、日照時間の長さですね。栃木県は冬の日照時間は長く、いちご栽培に適した気候に恵まれています。「いちご主産地の冬期日照時間」を見ても、いちごの最盛期である12〜3月の日照時間は他産地と比べて群を抜いています。


参考:気象庁「過去の気象データ検索」より1991〜2020年までの月ごとの平年値を表示し、合計日照時間を整理。いちご主産地のほか参考として東京の平年値を掲載。

将来の展望は?


自分もまだ就農5年目ですが、先輩や面倒を見てくれた方がたくさんいたからこそここまで来られたので、自分がしてもらったことをお返ししたいですね。もし、いちご農家に本気でなりたい熱意はあるけれど資金がない人や不安に思っていることがあれば、就農に向けて寄り添って相談にのってあげたいです。

いずれは法人化したいとも考えており、従業員に対しては厚生年金や社会保険もかけて、みんなで楽しく働けるような、そんな経営がしたいと思います。


最後に、農業に新規参入されたい方にエールをお願いします。


もし農業をやりたいなら、迷うより行動してみてください。いきなり新規就農しなくても、自分のように雇用就農したり、農家さんで一度働いてみたりして、自分のスタイルに農業が合っているのかを確認した方がいいと思います。まずは農業を体験してみてください!


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さいごに


これまで得たノウハウを、具体的な事例を交えてお話いただいた石川さん。就農5年目にして、地域やこれから農業を目指す人のことをも想う、頼れる兄貴のような方でした。

石川さんと同じように雇用就農を経て独立されたい方、まずは農業を体験してみたい方は、ぜひ下の相談ボタンからご相談ください。


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